卒業-18
「これで、卒業ね」
「卒業? どういうことですか?」
あたしは、タケシの胸のあたりを指で突いて言った。
「もう、タケシ君のここには、いっぱいエネルギーが溜まっているわ」
「ショウコさんが、そうしてくれたんです」
「違うわ。自分で、そうしたのよ。後は、あなた一人でやっていけるでしょう?」
「……僕が、まだ子供だから、ショウコさんの相手には相応しくないんですか?」
「逆よ。あたしは、タケシ君に相応しい女じゃないの」
「僕は、ショウコさんの事が好きなんです」
タケシは真剣だった。あたしは彼に深入りし過ぎてしまったのだろうか。
年下の彼を受け入れてしまうのも、悪くないかもしれない。
そんな想いが一瞬湧き上がったが、すぐに消えた。
彼は今ようやく、前を向いて歩けるようになったのだ。これから羽ばたく、普通の少年なのだ。
その少年のこれからの人生に、これ以上あたしが関与するわけにはいかない。
あたしは、そもそもこういう少年と出会うべきではないのだ。
「タケシ君、いい男になったわね、本当に。いつか、あなたの恋人になれる女の子は幸せかもね」
「僕は――――」
「あたしとのことは、忘れなさい」
「何故、ですか?」
「あたしは、普通の女ではないの。それ以上は、タケシ君に話したくないな」
「……僕が一緒にいることで、ショウコさんに迷惑がかかるんですね?」
あたしは、何も言わなかった。タケシは少し目を潤ませている。
「――――ここには、もう来ません。でも、ショウコさんのことは、忘れません。それで、いいですか?」
「ありがとう、でも、彼女の前では涙をこぼしちゃ、駄目よ?」
あたしは、親指で彼の顔から流れ落ちる涙を拭ってやる。
そうしてから、タケシを抱き寄せて、想いを込めてキスをした。
さよなら、タケシ――――
タケシが去った後には、彼が忘れていったのか、ベンチに銀色の水筒が置かれてある。
あたしは一人そこに腰掛けて、水筒の蓋を開け、中に入っている麦茶を一口飲んだ。
その麦茶は、ほんの少しほろ苦くて、しょっぱい味がした。