『BLUE』-9
「フフッ、誰が来たと思う?」
「・・・だから誰だよ?」
妹は依然ニヤニヤとしている。
イラついて先を促すと、ないしょ話をするかのように白状した。
「あのねぇ、名前聞いてないから分かんなかったけど女のヒト。
・・・もしかしてお兄ちゃんの彼女?」
女、と聞いてすぐに誰かが浮かび上がってくるような覚えは涼生にはない。
拭きおわったタオルを母親に返すと、詮索するような眼差しを向けてきた。
こちらは興味津々と言うよりは、涼生の甲斐性を疑っている様子だが。
二人の視線をもろに受けながら階段を登って左側の通路に出てから突き当たりの自分の部屋をノックする。
「はい、どうぞ。」
中から返事が聞こえてくる。
やはり女性の声だったが涼生はその声に聞き覚えがあった。
やっぱり、と心の中で呟く。
勇んでドアを開けると案の定、水原がそこにいた。
「あら、お早よう涼生。
遅かったじゃない。」
水原がさも当たり前のように涼生を迎えた。
一瞬自分の部屋ではないような気さえする。
彼女が普通にくつろいでいたせいもあってかあまり怒る気にもなれなかった。
「・・・何?何か用なわけ。」
階段の下からの妙な視線を無視し涼生は後ろ手にドアを閉めた。
涼生の部屋は四畳半にベッドやら机やらを置いてろくに座る場所もない。
そのため水原が唯一のスペースに腰を下ろすと自分はベッドの上に落ち着くしかなかった。
「ちぇ。せっかく住所まで調べて来たのに、そんなに冷たい言い草ってないじゃない。」
「勝手に俺の家を調べるのは結構だが、いったいウチの家族になんて言って入ったんだ?」
水原はバツの悪そうな顔を崩してさらりと言ってのけた。
「ガールフレンドです♪って言ったらすんなり通してくれたのよ。」
訝りもせず堂々と告げる彼女の態度に涼生は軽い頭痛を起こした。
ため息を抑えて改めて彼女の用事を聞く。
「ねぇ。・・・今日、ヒマかな?時間空いてる。」
「別に?ないけど。」
・・・言ってから涼生は後悔した。
―ヤバい、またシごかれるんじゃ・・・
水原の顔をそっと伺ってみたがそっぽを向いていて表情が読み取れない。
涼生は仕方なく覚悟して話しかけた。
「いいよ。今日は何をすればいい?
でも学校のプールは許可がないと使えないぜ。」
「?私、別に練習するなんて言ってないじゃない。」
水原がこっちを睨むように見た。
自然に涼生は後ずさる。
よく見れば彼女が着ている服はフリルのついたシャツに膝上のミニスカートで運動できる格好じゃなさそうだ。
普段、彼女とは制服か水着を着てるときくらいしか顔を合わせないので、私服姿の水原に会うのはこれが初めてだった。