『BLUE』-8
「え?そんなこと言うなよ。お前、部長だろう。」
「部長部長って・・・。
オレだって好きでなった訳じゃないぜ。
それにさ、今更そんなことしたって無駄だと思うね。第一オレ、朝弱いしさ。
悪いけど他のヤツあたってくれよ、なっ?」
木本の呆気ない返事に少しムッときた。
彼のやる気の無さは普段から知ってたがこんなに無気力なヤツだったとは。
他の部員じゃアテにならないのは木本だって知ってるはずなのに・・・。
「じゃ、オレまた寝るから切るぞ。」
「あっ、オイ!?
待てよ木本・・・」
木本の声の代わりに無機質な機械音が流れて電話が途切れた。
「くそっ・・・!!」
ほとんど一方的に電話を切られてしまったのが頭にくる。
それに彼のなかではもう部の存続の事などどうでもいいのかもしれない。
木本の言葉が胸に刺さる。
涼生は再び走りだした。
振り切るように、聞こえないように走り続けた。
「・・・無駄じゃない。」
絞りだした声が初夏の蝉の鳴き声の群れに掻き消されていった。
家に戻ると親や妹が既に起きている時間だった。
玄関を開けると彼女等は怪訝そうな顔つきで涼生を迎えた。
「なぁ〜に、お兄ちゃん。何やってたのよ朝から?」
「別に。散歩だよ、散歩。」
なおも訝しげに見る妹の視線を無視し流し場で顔を洗った。
「散歩はいいけど涼生が早く起きてくれると助かるねぇ。
学校ある日もこの調子だったらなおいいけどねぇ・・・。」
近くで母親の声がする。
勝手なことを言うものだ。と朝からの行為に少し後悔する。
明日からは見つからないように充分用心して家を出ることを誓った。
「そうそう。」
タオルで汗を拭いてると母が思い出したように涼生に告げた。
「アンタに珍しくお客さんが来たわよ。」
「へっ?俺に」
「うん。せっかく訪ねてきたのに肝心のアンタが居ないもんだから。」
「帰ったのか?」
涼生がそう聞くと答えたのは母ではなく、隣でパンを頬張っている妹だった。
「ん〜ん。今お兄ちゃんの部屋で待ってるよ。」
誰が来たのか聞いてみると急に妹が苦笑しながら上目遣いに彼を見た。