『BLUE』-7
「ハァ、・・・ハァ、・・・」
元々、朝もそんなに強くない彼からすれば二重に苦しい。
段々とペースも落ちてきて息も荒くなる。
・・・早めに家を出て正解だったな。
それに今日は土曜だから学校に遅れる心配もない。
初日から情けないとも思ったが程なく歩き始めた。
「はぁ・・・、疲れたぁ。でも、せめて完走しないとな。」
独り言がまるでうわごとのようについて出てくる。
せめて一緒に練習する仲間が居れば・・・。
一瞬、水原に付き合ってもらおうかと思ったがさすがにそこまでは面倒見てくれないだろう。
その考えもすぐに却下された。
となると残るは、と言うよりそれしか残ってないが答えは一つしかない。
おもむろにズボンから取った携帯を鳴らした。
Prrr・・・Prrr
「ふぁい、もしもし。」
「よぉ木本、俺だよオレ。」
睡魔を噛み殺した様な声で木本が応じる。
相変わらず面倒臭そうな調子にムッときたが本来ならこの時間に彼に繋がっただけでも奇跡だ。
「『オレ』?誰だ、お前。コレってもしかしてオレオレ詐欺なの?」
「馬鹿野郎。」
涼生が一蹴すると電話越しに木本の欠伸が聞こえてきた。
「何だよぉ?
休日にお前から掛かってきてもなぁ・・・。」
「ま、そういわずにオレの話を聞いてくれよ。」
渋々だが話は聞いてくれるようだ。
涼生は掻い摘んで昨日のことを話し始めた。
「げぇ!何、お前・・・あの"鬼原"と練習してる訳!?挑戦者だな、皆瀬。」
「オイオイ、言いすぎだって!
そんなに悪いヤツじゃないよアイツは。」
人使いは荒いけど・・・、と出しかけた口を慌てて紡いだ。
それを言ったらフォローにならない。
「う〜ん。水原もあの性格さえ治れば顔はイイんだから淑やかにしてればいいのに。その顔でキッツイこと言ってくるモンだから倍傷付くんだよなぁ・・・」
水原も彼に対しては多少言葉遣いが荒くなるらしい。もっとも、涼生自身彼と話してるときは語彙が汚くなってしまう。
たぶん誰が対してもそういう態度を取らざるをえない雰囲気を木本は持っているのだろう。
ようするに軽いヤツなのだ、こいつは。
大分話しがずれてきたので話題を元に戻すことにした。
「とにかく大会までもう日がない。
だから木本も一緒にやらないか?」
地獄の早朝一人マラソンに道連れが欲しいと動機は不純ではあったが、涼生の言ってることも正論に違いない筈だ。
なぜなら涼生達の出場が決まっているのは個人種目だけではない。
タイム競技の花形、リレーが残っているからだ。
だから団体として結果を残すためには涼生だけではなく、経験者の彼の力は絶対必要になってくる。
「・・・悪いけどパスだな。」
しかし木本の返事は素っ気なかった。