『BLUE』-6
第2話
まだ空が白けはじめたばかりの頃、静かに涼生は目を覚ました。
体を起こして軽くのびをすると、背中の骨が何本も軋んで嫌な音がする。
時計の針はまだ五時前を指していた・・・。
少し早いが着替えをして外に出た。
「さてと、今朝のメニューは・・・」
取り出した紙はくしゃくしゃに潰れていてよく見えなかったが、書かれていた丁寧な字が幸いした。
「朝散歩2Km、ランニング5Km、これを夜と同じメニューで、か。」
このぼろきれのようなメニュー表に書かれていることが本当だとしたら・・・
朝のランニング、放課後の定期練習、その後の水原との秘密特訓が終わったら、家に帰って再びランニング・・・という涼生にとってはとてつもなくシビアなスケジュールになっている。―水原の鬼コーチめ・・・
この場にいない人物に毒を吐きながらゆっくりと走り出す。
コースは特に決まっていなかったが市街地は車の通りが激しいのでなるべく控えた。
一時間ほど時間をかけて息をあげていく。
次第に走るテンポも速くなっていった・・・
・・・水原コーチが彼に指示したのは過酷ともいえる体力づくり。
―――『普通、短距離レースで大切な事は二つ。
スタートダッシュとスプリント。
特にスタートは重要で、コレが良いか悪いかでレースの勝敗がほぼ決まると言えるの。』
『うん、それで?』
『つまり、アンタの場合・・・そのスタートが全くなっちゃいないってことね。』
『うっ。』
『だから今までの50、100は捨ててもらって涼生の狙いは中・長距離のスイマーになってもらう事なの。』
『中・長距離?』
『ちょっと・・・分かんないなんて言わないわよね?』
『えーと、400とか800くらい泳ぐんだろ?
イアン・ソープが得意だったアレ。』
『半分アタリ。
正確には800と・・・1500にも出てもらう予定。』
『なっ!? 1500?
そんなに泳いだことねーよ!』
『大丈夫。アンタががちゃんと指示した通りに出来れば問題ないし・・・。
それに涼生はどっちかと言うとこっちに向いてるはずよ。』
昨日の練習後に水原から突き付けられた問題・・・それは800・1500mという長距離レースに参加するにあたり、涼生が克服しなければならないハードルがあるのだ。
『アンタ、マラソンは得意?』
『う〜ん。得意ではないけど、人並みくらいなら。
・・・何でそんなこと聞くんだ?』
『それじゃちょっと困るのよね・・・』
『だから何でだよ!?』
『うん、決めた。
涼生、アンタは明日から毎朝・・・』
「・・・毎朝走ること、か。」
彼は、涼生は体力不足だった。
結局人並み程度という言葉は、どんなレベルにしても結果をだすには物足りないものだ。