『BLUE』-37
控え室では池田高校の男子リレーチームが円陣を組むようにして座っていた。
涼生はすでに落ち着いていたが、他のメンバーはさすがに緊張が隠せないらしく辺りをキョロキョロと忙しなく見回していた。
かなり顔色の悪い者までいる。涼生は明るく彼らに言った。
「おいおい、最初から終わったような顔するなよ。」
「だ、だってよぉ・・・」
と第一泳者の下田が口籠もった。
「このプログラムを見ろよ。俺たち、清新工業の隣だぞ。緊張しない方がおかしいぜ・・・」
第二泳者の平坂が言った。プログラムを一枚ずつめくりながら手が震えている。
「じゃあ、俺と皆瀬はどうかしてるな」
と木本は言った。
「清新に勝つつもりでいるんだから」
平坂と下田の二人が眉を曇らせると、黙っていた下級生もうつむいてしまった。かさついた空気が部屋を包むと、誰も声を出さなくなった。
「もうみんな知ってると思うけど・・・」
ふいに涼生が顔を上げた。
「今日の大会を最後に、水泳部は廃部になる予定だ。理由は成績不振と女子部の拡大らしい」
部員達が顔を見合わせた。下級生の一人が木本の様子を伺ったが彼は応えずに鼻で息を洩らすと、こちらに向いた。
涼生はできるだけ大きな声で
でも、と呟くと、
「俺はまだ諦めたくない」
と言った。
「今日のレースの結果如何じゃ、存続も有り得るかもしれない。
もちろんこれは俺の推測だから、絶対はないけど・・・やれることはやっておきたいんだ。
だから・・・」
涼生は痛いくらいに握り締めた手を解くと、
「だから、頼む。
みんなも力を合わせて、俺に協力してほしい。
・・・お願いします」
立ち上がって頭を下げた。何度でも、するつもりだった。
「俺、やるよ。」
誰かが叫ぶように立った。目を上げると平坂が涼生の肩を叩いた。
「今日で引退だなんて、嫌だもんな」
「あんまり自信ないけど、足引っ張らないよう精一杯泳いでみるよ」
下田が頼りなげに手を挙げてみせた。気が付くと全員が涼生を見ていた。
「ありがとう・・・」
涼生はにっこり笑うと、もう一度頭を下げた。
「よせやい。俺たちだってこの部が好きだからやるんだ・・・お前と同じだよ」
平坂が強引に姿勢を直した。首を掴まれて目を丸くしている涼生の様子を見て、部員達はゲラゲラと笑いだした。涼生も笑うと先程までの殺伐とした空気はもうなかった。