『BLUE』-3
「うん。まぁまぁね。やっぱり皆瀬に測ってもらうと調子良いや。」
本人はそうでなくとも涼生には十分嫌味に聞こえた。
「そうかよ・・・。」
そのまま水からあがった彼女はプールサイドに腰を下ろした。
「そういえば・・・アンタは何でここにいるの?」
いまさら気付いたのか最初から知ってたのか、どっちにしろ涼生にとっては失礼な話だった。
「練習に決まってるだろ。外が暗いから、屋内を使おうと思ってきたらお前が居たんだよ。」
持っていたペットボトルを一気に飲み干す。そこで水原の口が開いた。
「そうなんだ。でもここのプールって女子専用だよね、確か。」
涼生はギクリとした。
―まさかこの女、さっさと俺を追い出す気じゃないだろうな・・・。
「分かってるよ。だから練習中じゃなくてその後ならいいだろ。もう誰も居ないわけだし・・・。」
彼女にまともに意見するのが恐くて何だかもごもごした喋り方になってしまった。
水原は少しイライラしながらこっちを見た。
「私が居るでしょ?練習中の私が。」
「うっ・・・」
水原が予想以上に突っ掛かってくるので思わず涼生は戸惑ってしまう。
だが、彼もここで退くわけにはいかない。
自分も部員である以上はこの場所を使う権利はあるはずだ。
「マジで頼むよ。絶対水原の邪魔しないし・・・なんだったら隅っこで構わないから、さ。」
水原は何も答えない。
涼生の話を聞いているのかも分からない。
―もう今日はダメかな。
水原がやっと口を開いたのは涼生が仕方なく帰ろうとした時だった。
「いいよ、使ってっても。」
「ホントに!?」
「ただし・・・」
彼女が上目遣いに笑ってみせた。
・・・いやな予感がする。
「一つだけ条件があるの。聞いてくれるよね?」
午後七時半。
定期の練習を終えた他の部員はとっくに帰ってる時間だった。
涼生は部室の前で大きく息を吐き、それからゆっくりとノブを回した。