『BLUE』-27
「池田高校を受けようと思ったのは完全に俺のおごった自信からだった。
“女子だけの名門水泳部”、普通に清新に進学するはずだった俺はこの言葉に意味のない対抗心を燃やした。ただそのまま清新高の水泳部に入るのをあの時の俺が許さなかったんだ。」
「それで、池田に入って俺たちと新しく始めたんだな。」
「そうさ。最初は無我夢中だった。清新を超えるチームを創ってやろうと必死で練習した、経験のないお前達に分かりやすい指導も考えた。
・・・でも、ある時気付いたんだ。
俺のタイムが高校に入ってから全然上がってないことに」
「でもそれは、初心者の俺たちに構って自分の練習がまともに出来なかったからだろ?」
「皆瀬達のせいにするつもりはないさ。」
そういって彼は努めて明るく振る舞った。
「俺には水原や清新の深間みたいな才能がなかっただけなんだよ」
「深間・・・」
その名前を聞いて涼生は先日の彼とのレースを思い出す。
体力、瞬発力、タイミングの全てに分がある深間は確かに速かった。
それは素質という点においても同じなのかもしれない。
しかし涼生は彼にレースで勝つことを宣言した。
才能や素質といった言葉に反抗するのは自分が凡人だと自覚しているからだ。
だからこそ努力という言葉を掲げてそれを打ち破りたかった。
―そして木本にもそうなってほしいと願った。
改めて彼の顔を見る。
表情こそ普段どおり笑ってはいたが、その目にはかつてのような自信は見受けられなかった。
「木本」
「なんだ?」
「本当にもう辞めたいのか?・・・続ける気はないんだな?」
木本の顔が一瞬曇る。しばらく俯いたままだったが強張った視線を涼生に送ると力無い返事をした。
「ああ、もう疲れちまった・・・」
消え入りそうな声でそう呟くと木本は部屋の隅の棚に目を向けた。
涼生もそちらに向き直る。
「あれは中学の時の物?」
「うん。でもガキの頃の奴も混ざってるかな」
ふーん、と涼生はその賞状類をみて頷く。
目線を少しあげると先程の写真がよく見えた。
「この写真は?」
ああ、と木本は立ち上がると懐かしそうにその写真を手に取った。
「中三の最後の大会で撮ったんだ。
確かその大会で初めて深間のいた学校に勝って優勝したんだ。
・・・あの時は嬉しかったな。」
嬉々として当時を振り返る木本だったが、表彰物をひとしきり紹介しやるとふいに微笑を消した。