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『BLUE』
【スポーツ その他小説】

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『BLUE』-25

前に電話で断られたとき以来、彼とはあまり話をしていなかった。
実際は涼生が彼を避けていたのだが木本から積極的に話し掛けてくることもなかったのでほったらかしになっていたのだ。
勢い勇んでここまで来たのはいいもの、どうやって話の糸口を掴もうかまだ分からずにいた。

――どうしよう・・・やっぱり気まずいよな

そうこうしている内に目の前には目的の建物が視界に入っていた。
表札を確かめる、間違いない。
ここが木本の家だった。
しばらくその場に立ちすくんで思案していたが意を決してインターフォンを押すことにした。

ガチャ、

家の人に取り次いでもらうつもりだったが、玄関の扉を開けて現れたのがいきなりソイツだった。

「あれ、皆瀬じゃん?
どうしたんよこんな時間に。」

木本は思いの外明るかった。

「あ、ああ。お前が早退したって聞いたから様子を見にきたんだ。」

「ふ〜ん。まぁ、とりあえず上がれよ。」

頷いて玄関先から中に入る。夕食はもう済ませたのか横手に覗いた台所には誰もいなかった。
木本に続いて二階に上がると通路の端に彼の部屋を見つけた。
先に入ってろ、と彼がいい階段を下りていく。
涼生は指示どおり中に入って待つことにした。


部屋は意外と小綺麗に片付いていた。
とは言ってもモノが少なく大したインテリアを飾っているわけでもない、ただ単に殺風景なだけだった。
だが涼生はその部屋の一角に集中した唯一の飾り物に注目した。
そこには沢山の賞状、トロフィーが棚のうえで誇らしげに並んでいた。
棚の中央には中学時代の彼が水泳部として写っている写真が額に飾られて大事そうに置いてある。
そこには水原を含んだ部員達に囲まれて幸せそうな笑顔の彼がいた。
アイツ、こんな顔して笑ったことなかったな・・・

ガチャ、

「なぁ、コーヒーでいいか?」

「おお、サンキュー」

部屋に戻ってきた木本が座ると机にカップを二つ置いた。

「それで、どうした。心配して来たわけじゃないだろ?」

彼の口調が急に厳しくなった。探るような目をこちらに送りながら涼生の言葉を待っているようだ。

「うん。実はな、部活のことなんだけど・・・」

彼はわずかに眉をひそめた。

「大会も近いからさ、お前が先頭に立って練習に参加してくれないと困るんだ。」

彼はしばらく黙っていたが手に取ったコーヒーを一口飲むとそっけない言葉を返した。

「俺も好きで部長やってるわけじゃあないからさぁ。面倒臭いしお前が引き受けてくれないか。」

涼生には彼が部を辞めたいと言っているように聞こえた。
入学当時、木本に誘われて立ち上げた男子部のリーダーを彼は自ら立候補した。少なくともそのときは部長としての立場に責任をもって取り組んでいたはずだ。あくまでおどけた調子を崩さない木本を見て涼生は無性に苛々してきた。


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