『BLUE』-23
第4話
翌日から涼生はただ黙々と練習を続けた。
朝からのロードワークもしっかり完走し、放課後も誰よりも遅くまで残っていることが多くなった。
その目を見張る成長ぶりには水原も驚いていた。
最近は彼女からの指示もなく、長距離を泳ぐ涼生のタイムやフォームチェックを記録したノートに書き留めていた。
何時の間にそんなものが出来ていたとは露知らず彼女がそれを見せてくれたときは心底驚いた。
「スゴいな、これ・・・毎日書いてあるじゃないか」
そこには一日のメニュー、練習時間、彼女のアドバイス等がびっしりと事細かに書き記してあった。
部活ノートの類は各クラブに支給されたものが確かにあるが、男子部にはマネージャーがいないためどうしてもその辺が不精になってしまいがちだ。
だからそのノートは必然、部室のロッカーの上で埃まみれになっている。
「サンキュ、水原。コレ、きっと役立つよ。」
涼生が素直に感謝すると、水原はそれに応えるようにニッコリと笑った。
「でも、お前だって練習があるのにこんなマネージャーみたいな真似させるのは悪いよ。」
「気にしなくていいわよ。地区レベルの大会なら練習時間を削っても余裕があるから。」
水原は声高らかに自身たっぷりとした口調で言ってのけた。
確かに彼女の言うとおりだ。他の女子部員には残念だが県内でコイツに勝てる人間はまずいない。大会まで一週間を切る時期にもなれば、もうがつがつ泳ぐ必要もないだろう。
涼生は再びノートに目を落とす。
一枚ずつめくると今後の日程に沿ってメニューが組まれていたが、あるページで急に手がとまった。
・・・そこには木本、他の部員用の特別メニューが書き記されていたのだ。
そこで涼生は改めて彼らの存在を思い出した。
(そうだ!リレーのメンバーは俺一人じゃないんだ)
普通、もっと早く気付いてもいいものだが最近のハードワークですっかり忘れていた。
いや、それだけじゃない。木本も他の部員もここ一週間ほどほとんど部活に顔を出していないのだ。
ノートを閉じ慌てて水原に聞いた。
「なぁ、木本来てなかったよな。アイツ今日休んだの?」
彼女と木本は同じクラスメイトだった。
水原は首を傾げるように思い出しながら話した。
「え〜っと、学校には来てたと思うけど・・・ああ、確か掃除の時間にはいなかったからその前にサボったのね。
アイツ掃除当番になるとすぐ帰るんだから・・・」
木本の名前を聞いたとたん愚痴を言い始めた水原を抑えて涼生は先日の深間との約束を話した。
「なにそれ?私、聞いてないんだけど・・・」
話を聞いたとたん、彼女は明らかに不機嫌そうな顔をした。
「アンタねぇ、清新のリレーチームって言ったら・・・」
「分かってる。それは前に聞いたから・・・。
でも深間君に約束しちゃった手前、どうしても出ない訳にはいかないんだよ。」
涼生が情けない言い訳をすると、彼女は呆れたように肩をすくめる。
濡れた髪を乾かしながら水原はでも、と呟いた。