『BLUE』-2
「水原・・・?」
パシャ・・・
音が消えた水面から顔を出したのは女子部の水原奏子だった。
「ハァ、ハァ・・・。」
かなりの距離を泳いでいたのか、彼女の息は荒かった。不意に涼生は声を掛けられる。
「・・・ねぇ、ちょっと、いい?」
「え?う、うん。」
彼女の呼び掛けに応じてゆっくりと近づいていく涼生・・・。
「な、何?」
「ハイ!これ。」
水原が手渡してきたのはロープに掛けてあったストップウォッチ・・・もちろん何の変哲もない。
「・・・なんだよ、コレ?」
「何って、まさか分かんない訳?」
「いや、モノは分かるけど・・・。」
当たり前だろ、と涼生は思う。
「納得したならタイム測ってよ。100m。」
「ハァ?何で俺が!?」
「アンタが丁度よくここに来たからじゃない。
さっ、早く早く。」
水原の勢いに流され結局涼生は彼女のタイムを測る羽目になった。
水原は女子水泳部のなかでも一番速い。
下手すると男の自分よりも速いんじゃないか・・・と思ってしまうほど。
水原としても涼生が自分のことを苦手にしてるのを知ってか知らずか最近ではまるでパシリの様な扱いで接してくる始末。
要するにナメられているのだ。
「はぁ・・・。」
デカいため息が一つ吐いて出てきた。体も妙に冷えてくるのが分かる。
・・・そういえば海パン一丁でシャワーを浴びてから準備運動もしていなかった。
七月とはいえ吹き抜けてくる夜風に、濡れた体をそのままにしてたら風邪を引いてしまう。この時期にもし体調を崩したりなんかしたら終わりだ・・・なんて考えてたら鼻水とくしゃみが同時に出てきた。
・・・冗談じゃない。
カチ、カチッ!
「どうだった、タイムは?」
既に泳ぎおわった水原は、今度は息一つ乱してない状態で涼生に近づいてきた。
「ねぇ、見せてよ。」
そういった水原の顔は、やはり自信に溢れていた。
涼生は内心ムッとしたが、手元に表示された数字が彼女を裏切ることはなかった。
ほらよ、と多少の抵抗を込めて投げ渡す。
水原のタイムは100mで五十七秒。
涼生が知るかぎりこれは彼女の最高記録だった。
だが水原はさも当たり前のようにこの事実を受けとめてみせた。