『BLUE』-19
「兄ちゃん、なにやってんだよ?ボケッとしてないで軽く体をほぐしとかないとダメだろ」
「ああ・・・そうか。忘れてた。」
忠告を受けて慌てて準備運動を始めた。
タケルはあきれた物を見るように首を振ってみせた。
「ねぇ、ちなみに聞くけどさぁ。兄ちゃんのベストって幾つ?」
「ベスト?100でいいのか。」
「うん。」
「54秒29」
タケルが意外そうな顔をした。驚いて涼生を見上げている。
「・・・意外だな。そのタイムなら充分、速いじゃん。なんで全国に行けないの?」
「全国1位が同じ大会に出てるからだろ。
・・・それに俺、いっつもスタートで失敗してろくなタイム出してないしさ。」
「え?じゃあこのベストは」
練習でだした、と答えるとタケルは納得したのかしてないのか首を傾げるだけだった。
一通りの運動を終えると待ち兼ねていたかのように水原が呼んできた。
「準備できた?そろそろ始めていい?」
うん、と頷くと彼女は取り巻きの中から深間を呼び出しこちらに引き合わせた。
「じゃあ勝負の前に握手して。」
「うん、今日はよろしく。」
深間が笑顔で握手を求めてきたのでそれに応じて素直に握りかえした。
水着に着替え臨戦態勢になった彼の体は、さすがに隆々としていていかにも水泳選手といった外見をしていた。
握手に応じた手にも思わず力が入ってしまう。
「やる気満々だね。」
手を離した彼はそう言って腕を振ってみせた。
涼生は実際に深間と対峙して萎縮している自分に気付いた。
緊張が中々解けない。
水原が笛を鳴らした。スタートの合図だ。
深間に合わせて中央の第四コースに彼が、第五コースに涼生が並んで立つ。
一気にまわりの空気が変わり、二人を中心にピンと張った雰囲気がその空間を包んだ。
ドクン、ドクン・・・
胸の鼓動が収まらない。どうか止まってくれと願ったが、スタートが近付くにつれさらに高鳴っていった。
「位置について・・・」
水原がスターターを務める。片手を前に差し出し腰の辺りで止まって二人を待った。
「よーい、・・・」
ドクン、ドクン・・・
「ドンッ!!」
水原の手が力強く振り上げられる。
それが合図だった。
勢い良く飛び出すと頭から水中に潜り込む。
全身が入水すると3、4回ドルフィンキックが入る。そして水に浮かんできたところですかさず体をひねり腕を回した。
右、左、右、左・・・
気付くと横には深間の姿はなかった。
もしかして、勝ってる!?
まさかと思いながらも泳ぎ続けた。
25mラインを越えたところでさらに力を入れた。