『BLUE』-17
「――それで、深間君と俺を引き合わせてどうしようってんの?」
水原は近くにあった椅子に座ると肩までかかった髪をかき回して苦笑を浮かべた。
「光くんにはもう話はついてるのよ。今準備してくれてる。」
「話?何のことだ。それ?」
「勝負。100Mの。」
ハァ?と涼生は水原の顔を見返した。
「何で俺が深間君と勝負しなきゃならないんだよ!
相手は次期五輪選手だぞ」
「でも同じ高校生よ。」
水原が言った。それは叱咤するような響きを含んだ言い方に聞こえた。
「――しかも、光くんは次の大会にも出てくるのよ。アンタと同じ自由形で。」
一瞬、涼生の動きがとまった。
彼女は座ったまま真剣な目でこちらを向いている。
涼生は何か言おうとしたが思わず気圧されて、手詰まりになってしまった。
もちろん、深間は同級だから大会に出てくるとなると、大変なライバルになる。涼生自身あまり覚えていないが彼とは何回か、地区予選などで顔を会わせているはずだ。
その時の結果は言うまでもないが・・・おそらく向こうからすればなんて事はない、レースだったのだろう。レベルの差は歴然だった。
涼生からすれば今回のレース自体勝負になるわけがないのだ。
むすっとそっぽを向いたが、やがて彼女は少しずつ話しだした。
「涼生、聞いて。
アンタを今日ここへ連れてきた本当の目的は、今の力で競ってみて・・・光くんの実力を肌で感じてほしいと思ったからなの。
・・・だから、負けても別に気にすることはないよ。むしろそこから何かを学べたら、挑戦としては成功なの。」
水原は諭すように涼生をなだめた。
涼生は俯きながら依然顔を背けていたが、向き直ると彼女にこう告げた。
「・・・分かったよ。
やればいいんだろ。」