『BLUE』-16
「なら、いいわ。
そろそろ時間だからアンタはもう始めてなさい。」
分かったとタケルが返事をすると、彼は他の子供たちを集め始めた。
子供たちがタケルの声に素直に応じていくのを見てると、彼らのリーダーはやはりタケルらしい。
水原はその過程を一通り確認すると涼生を呼び付けた。
「タケルから聞いたなら説明することもないと思うけど・・・私、ここでバイトしてるのよ。」
ああ、と涼生は頷いた。
タケルが話していたが、彼女も深間と同様にこのジムで働いていたのだ。
二人が姉弟だという事実に浮かされて、すっかり忘れていた。
「でも、ウチの学校はバイト禁止だろ?」
涼生が問うと、彼女は罰が悪そうに笑って頭を掻いた。
「はは・・・。アンタが黙っててくれれば問題ないでしょ?」
それはそうだけど・・・と涼生は訝しんだ。
水原は何故こんなことを自分に話したのだろう。
アルバイトが知れたら規律の厳しいウチの学校ならまず停学、悪ければ退学になりかねない。
「・・・俺が言うかもよ?」
する気もないことを言ってみたが、水原は大丈夫と首を横に振って答えた。
「アンタにそんな度胸はないから。」
思わずムッとする。だが涼生は言い返せなかった。
実際水原の言うとおりだったから、何だか見透かされたような気分になった。
「それにね・・・」
水原が少し身を乗り出した。
「たとえ学校にバレたとしても、涼生なら絶対私の味方してくれるもの。」
彼女の声が耳を衝いた時、自分の胸が高鳴っていくのを感じた。
必死に赤くなった顔を隠すために、俯き加減にうんと答えることしかできない。頭が熱くなって、気付くと風邪を引いたみたいに頬がのぼせ上がってた。
「どうしたの?」
気付くと、水原が顔を覗き込むような態勢で不思議そうにしていた。
「べ、別に何でもないよ!」
さりげに彼女から離れて息を吐く。
落ち着いてみると、少しでも水原を意識していた自分が妙に恥ずかしかった。
彼女は慌てて遠ざかった涼生を相変わらず不思議そうな顔を崩さずに、訝しんで見ていた。
「そ、それより、なんで今日は俺を連れてきたの?」
とりあえず一番気になっていた事を聞いて怪しまれないように努めた。
彼女はそういえば、と改めて涼生をこの場所に呼んだ理由を話した。
「アンタに会わせたかった人がいるんだけど・・・」
「深間光?」
涼生が先に言うと、水原は少し驚いて頭を傾げた。
「知ってるの?」
「有名だからさ、顔見ただけで分かった。
水原、深間君と知り合いだったんだな?」
「うん。家が近所なのよ、腐れ縁って感じ。」
彼女は悪びれもなくそう言っただけだったが涼生はその時、自分の胸が少しだけ痛むのを感じた。
しかし顔には出すまいと必死に感情を押し殺した。
表情を悟られぬように微かに目線を下げた。