『BLUE』-11
「あの、水原さん・・・?」
「奏子でいいよ。」
春美が頷くと改めてファーストネームで彼女に聞いた。
「奏子さんは、兄とこれから何処へ?」
春美は横にいる涼生を含めて二人を一瞥した。
明らかに何か探ろうとしてる。
普段抜けてる妹だが、こいつは母親譲りのしたたかさがある分、隠し方も巧妙だった。
水原が余計なことを言わないうちに、適当に誤魔化そうかと涼生は口を開く。
・・・だが次の瞬間彼女はあっけらかんと答えてしまった。
「デートよ。行き先は秘密だけどね。」
「嘘ぉ!?お兄ちゃん達ってもしかして付き合ってるの?」
これには涼生が反論した。
「ば、ばか言え!用事があるから一緒に出るだけだ。お前もいちいち水原の冗談に反応するな。」
「何だ、違うのかぁ。
でも、お兄ちゃんは奏子さんのこと意識してんじゃないの?」
「なっ!?」
急な不意打ちをくらって涼生は耳まで真っ赤になった。
とにかくこれ以上、コイツに水原を関わらせるのはうっとうしかった。
半ば無理矢理水原の手を引いてさっさと家を出る。
まだ何も聞いてないよぉ、と間延びした声をいつものように無視した。
バスに揺られること一時間あまり、涼生達は隣町のターミナルで降りた。
商店街というよりは少しましなビル群が雑多に立ち並ぶ街中は、まだ朝方からなのか人気もほとんどなかった。
「お前ってこの辺に住んでるの?」
前を歩く水原に尋ねる。
彼女はバスを降りてすぐについてこいと言わんばかりにさっさと歩いていってしまったので涼生は慌てて後ろにひっつく様な位置になってしまった。
「んーん。家は近いけど、今から行く場所は別のところよ。」
涼生はさっきから何度も聞いたがやはり行き先を教えてはくれなかった。
水原は秘密というよりは答えるのが面倒臭いといった感じでどんどん先にいってしまう。
5分ほど黙って歩いただろうか、水原が急に立ち止まりこちらに振り向いた。
「ここよ。」
涼生は思わず振り仰ぐ。
彼女の指し示した方には、ドーム型のやけにデカイ建物が周りのビル群に対し誇らしげに構えていた。
だがいきなりこんな物見せられても涼生にはさっぱり理解できない。
「『ここ』って・・・いったい何をする場所なんだ?説明してくれないと分からん。」
「別に・・・ただのスポーツジムよ、ここは。」
こともなげに言い放つと水原は歩きだした。
その影を追い掛けながら
涼生は文句を言う。
「ジム?もしかしてプールもあるのか!?お前が練習じゃないって言ったから手ぶらで来たんだぜ。」
「心配しなくても遊泳用の海パンくらいなら借りられるわよ。」
彼女は呆気にとられる涼生を脇目にドームの中に入っていく。
「デートじゃなかったのかよ・・・」
仕方なくそれに続きながら密かに愚痴をこぼした。