『BLUE』-10
急に涼生は今の状況がすごく特別なものに思えた。
不可抗力とはいえ自分の部屋に女の子を入れたことなんて史上初の出来事だから否応なく緊張する。
息を呑んで彼女のほうを見やるとさっきとは違って幾分か穏やかな雰囲気になっていた。
依然として明後日の方向を見たままの彼女に怖ず怖ずと声をかけた。
「あの、水原・・・?
何か用事があったんじゃないの。」
「う、うん。」
水原は言いづらそうに言葉を選んでいる様子だった。先を急かす余裕もなかった涼生は黙ったまま彼女を待つことにした。
しばらく部屋は沈黙した状態が続いた。
今日の水原は少しおかしい。
普段の彼女は決して物怖じせず堂々とモノを言う性格で、とにかく男だろうと年長者だろうと構わず常に対等であろうとする。
だが今は明らかに動揺しているのが涼生にもはっきりとわかる。
沈黙に耐えられず最初に口を開いたのは涼生のほうだった。
「なぁ、大丈夫か?
今日のお前、変だぞ。
少し疲れてるんじゃないか?」
涼生が身を乗り出すと彼女は慌てて手を挙げて制した。
「だ、大丈夫!
・・・別になんともないから心配しなくていいの。」
振り払った手を収めると彼女は大きく息をつき、深呼吸を2、3回した。
「あの、それで・・・さっきの事もう一度確認するけど、今日は何もないのね?」
「うん。それで?」
水原はようやくこっちに向き直って涼生を見た。
そして立ち上がると出掛ける準備をしてと言って先に部屋を出ていってしまった。
涼生は困惑しながらまだ汗の滲んだシャツに手をかけた。
涼生が着替え終わると見計らったように水原が戸を開けて声をかけてきた。
「ねぇ、準備できた?
まだなら早くして。」
まだ少し体が汗臭かったが気にする相手でもなかったから涼生の格好もずいぶんラフになった。
OKの合図をだすと水原は軽くうなずいて涼生を先に階段に下ろした。
一階では先程の二人が興味津々といった目をして待ち受けていた。
「アレ、お兄ちゃん達どっか出掛けるの?ねぇ。」
涼生が何も答えないでいると妹は攻撃の対象を変えてきた。
「妹の春美です。初めまして、えっと・・・」
「春美ちゃん?私クラスメイトの水原奏子。
よろしくね。」
ニコッと笑う彼女に妹もつられて緊張気味だった表情を緩めてみせた。
涼生はというと珍しく水原が愛想を振りまいたので思わず見入ってしまう。