狂い始める歯車-3
「でも、そうもいかないんだよね……」
相変わらず眉間に力が入った状態で、あたしは深いため息をつく。
「なんで?」
「最近、優真先輩のメールが素っ気ないんだ。心なしか、会う回数も減ってきたし、あたしにキスもしてくれなくなったし……」
あたしが優真先輩を拒んでしまったあの日以来、優真先輩に連絡しても、どことなくよそよそしい雰囲気を出されていたのだ。
メールも、絵文字がなくなり。電話もそそくさと切ろうとしているのが伝わり。会っても、二人きりでいられる場所じゃなくて、ファミレスとかカフェのみで。
優真先輩があたしに愛想を尽かしかけている不安と、セックスに対する恐怖が頭の中でいっぱいで、気が狂いそうになる日々を送っていた。
原因がおそらくあたしにあるのがわかるから、優真先輩を責めるわけにはいかず、八方塞がりの状態が続いていた。
「恵、それってやっぱり恵が……」
「わかってるよ。あたしがいつまでも怖がってばかりだってのはよくわかってる。でも、お互い愛があれば、ゆっくり乗り越えて行けるもんじゃないのかなあ」
漫画なんかじゃ、男が女を大事にしすぎるあまり、なかなか出来ずに、ラストのラストでようやく結ばれるパターンがよくある。
“我慢することこそ愛”をそういう漫画の中に見出していたあたしには、男と女がすぐさまセックスをすることが軽率に思えて仕方ないのだ。
「んー、恵はそれでいいかもしれないけれど、寺島先輩だって健全な若い男だからねえ。いろいろ生理事情もあるだろうし……。
誰か、男の子に訊いてみたら? 今の寺島先輩がどれだけしんどい状態かってのを恵は理解しなきゃだめだよ」
「男の事情……か。でも、あたし男の子の友達なんていないし……」
あたしは眉間にしわを寄せたまま腕組みをした。
女子中、女子高育ちのあたしにとって男友達というのは皆無だった。
大学だって、ほとんど輝美と一緒だし、サークルにも入ってない。
唯一交流を深めているゼミには優真先輩がいるから、他の人に訊くわけにもいかない。
ここでも八方塞がりになってしまったあたしは、そのままヤニで黄ばんだ天井を仰いだ。
すると、輝美が
「あ、そういえばちょうどいいのがいんじゃん」
と言うので、あたしはパチリと目を開いて輝美を見つめた。
彼女はシシシと白い歯をニッと見せながらあたしの背後を指差す。
促されるようにあたしが後ろを振り向けば、
「……んげ」
「よう、クモの巣女。まだクモ飼ってんのか?」
――あたしの深刻な事情をしらない臼井陽介が、いつもの如くあたしを腹立たせる言葉を言い放ちながら、こちらにやってくる所だった。