報復-1
ケネスはプールの建物を飛び出した。そしてケンジに聞いた道順をたどり、アヤカのマンションを突き止めた。
「ここやな・・・・。」ケネスは灯りのついた二階の窓を見上げてつぶやいた。
アヤカはワンルームマンションに一人暮らしだった。ケネスは玄関のインターホンを鳴らした。すぐに女性の声がした。「はい。」
ケネスは努めて明るく声を張り上げた。「アヤカはんでっか?わい、ケネスです。」
「ケニー?」アヤカの声が跳ね上がった。
「あ、あの、わい、この度日本に住むことになりましてな、ごあいさつに上がりましてんけど、お邪魔してもよろしか?」
「もちろん。どうぞ。」
ブザー音が鳴って、入り口の観音開きの大きなガラスのドアの鍵が自動で開けられた。ガチャリ。ケネスは入ってすぐのエレベータに乗り、二階で降りた。
「202号室。ここや。」
ケネスがノックする前にドアが開けられた。「ケニー!」
「久しぶりでんな、アヤカはん。お元気でっか?」
「入って、ケニー。」
部屋に通されたケネスはできるだけアヤカに悟られないように部屋の中を観察した。ベッドがある。ノートパソコンが置かれた小さな白いテーブルがある。その横にテレビがある。アヤカがいつも部活に持ってきていたバッグはテーブルの下に置いてあった。その横に別の小さなバッグ。「(ビデオカメラはあの中やな・・・・。)」ケネスは思った。「(まだ開けてないっちゅうことは、ビデオはそのまま・・・。パソコンもまだ開いてへんし。)」
「驚いちゃった。ケニー。いきなり来るなんて。でもよくここがわかったね。」
「へえ、なんちゅうか、その・・・・。」ケネスはわざと言葉を濁した。「ア、アヤカはんに会いとうて、わい・・・・。」
「私も会いたかった。」アヤカは、ケネスに近づき、手を取った。
「え?あ、あの・・・・。」ケネスは戸惑って見せた。
「会いたかったって、どうして?ケニー。」
その後の展開をケネスは悟った。「(よっしゃ!うまくいきそうやな。)」ケネスは心の中でガッツポーズをした。しかし、決して自分からアヤカに手を出さなかった。彼はジーンズのポケットに手を入れて、何かを触り、すぐに手を抜いた。
「ねえ、ケニー、私を抱いて。」
「え?そ、そんな、アヤカはん、わい・・・・・」ケネスは赤くなって見せた。
「そのつもりでここに来たんでしょ?」
「・・・・・・・・。」
アヤカはケネスをベッドに押し倒した。「あっ!」ケネスは小さく叫んだ。そしてアヤカはケネスの口を自分の口で塞いだ。「んんんん・・・。」ケネスは呻いた。
「萌える。男の人が何かされて感じる姿、私大好きなの。」
アヤカは着衣を脱ぎ始めた。「ねえ、ケニーも脱いでよ。」
「は、はい・・・。」ケネスは戸惑いながらもジーンズとシャツを脱いだ。ジーンズは丸めてベッドの脇に置いた。
「嬉しい、もうこんなになってる。」アヤカはケネスの股間がビキニの下着の中で大きく膨らんでいるのを見て歓声を上げた。
アヤカはすでに全裸になっていた。彼女はケネスの股間を下着越しにさすり始めた。「ううっ・・・・。」ケネスは小さく呻いた。
「こんなに大きいの、初めて。」アヤカはうっとりとした目でケネスの股間を見つめた。
「ア、アヤカはん、」ケネスが首を起こして言った。
「何?」
「わい、あんさんにお土産買うてきたんやけど・・・。」
「後にしてよ。雰囲気が台無しじゃん。」
ケネスは構わず起き上がり、自分の荷物から小さなチョコレートの箱を取り出した。「実はな、このチョコ、媚薬でんねん。」
「媚薬?」
「はい。性感アップの成分が入ってまんねん。カナダでは『夜のチョコレート』呼ばれてまんねんで。」
「ほんとに?」アヤカの目が輝いた。
「食べるなら、このタイミングがよろしで。」
「食べる。ケニーもいっしょに食べよ。」
「あいにくオトコには効果なしなんや。女性専用。全部アヤカはんにあげるわ。」
アヤカはケネスの手からそのチョコレートをひったくるように取り上げると、包装紙を破った。「これだけ?」箱の中には金色に着色されたアルミで個別包装されたチョコレートが二つ入っていた。
「二つとも食べるんやで、でもそれだけで十分や。」
「いただく。」アヤカはそのチョコレートを立て続けに二個とも口に放り込んだ。「苦っ!」アヤカが小さく叫んだ。
「媚薬の成分は苦いもんやで。」アヤカが顔をしかめてそれを飲み下したことを確認したケネスは、気づかれないような笑みを浮かべた。