報復-4
ケンジとケネスの話を聞いているうちに、マユミの目には涙が宿った。「ケン兄・・・・。そんなひどい目に遭ってたなんて・・・・。あたし、知らなかった。」
シャツを脱いで上半身を露わにしたケンジはうつむいていた。マユミは胸のアザにそっと触れた。「ひどい・・・・。ケン兄、ごめんね、ごめんね・・・・。」
「な、なんでマユが謝るんだよ。お、俺の方がお前に謝らなきゃいけないのに・・・。」
「ケン兄左腕を痛めてまで、あたしのことを想ってくれていたんだね。」
「で、でも、マユ、」
マユミは涙を拭って顔を上げた。ケンジは元通りシャツを身につけた。
「お、俺、アヤカとセ、セックスしてしまった。お前を抱く権利は、俺にはもう・・・・。」
マユミはいきなりケンジの身体を強く抱きしめた。「くっ!」ケンジは胸と腕に走った痛みをこらえて、マユミの身体を抱き返した。
ケンジの胸に顔を埋めたまま、マユミは言った。「なんでそんなこと言うかな!いやだ!ケン兄に抱いてもらえないなんて、あたし絶対いやだ!いやだからね!」
マユミの髪を撫でながらケンジは言った。「ごめん。ごめんな、マユ。もう言わない。」
「あたしのことも、信じてよ。ケン兄電話で『信じろ』って言ったじゃん。」
「・・・・わかった。信じる。信じるよマユ・・・・。」
マユミはそのまま小さく呟いた。「アヤカ・・・・・許せない・・・・。」
「二人とも聞いてくれへんか。」ケネスが切り出した。「あいつの行動はだいたい想像がつく。わいに考えがあるんや。」
ケンジとマユミは並んで座ってケネスの計画に耳を傾けた。
「おそらく、明日の試合で、アヤカはケンジにまたモーションをかけてくる。写真とビデオをネタにお前をゆするはずや。」
「でも、ケニー、お前がデータは全部消してしまったんだろ?それでも俺に言い寄るかな。」
「安眠チョコの威力を甘く見たらあかんで。約12時間は目が覚めへん。起きたら大会に遅刻する時刻のはずや。データを確認する暇なんてあれへん。」
「そ、それはもはやチョコではなく、薬物の範疇・・・・。」
「アヤカに言い寄られたらな、ケンジは何食わぬ顔で対応し。よし、練習や。」
ケネスはケンジの手を取った。「『海棠くん、また私を抱いてくれるでしょ?』」
「断る。」
「『そんなこと言えるのかな?あの写真、みんなにばらまいてもいいの?』」
「ばらまけるもんならばらまら・・・ばら・・・まいてみろよ。」
「舌、もつれてるで。」
「『ばらまいてみろよ。』」
「よし、その調子や。」
「ケニー、お前はどう振る舞う?」
「もしアヤカがわいのことを疑うてなければ、わいにもモーションかけてくる可能性もあるな。」
「そうだな・・・・・。微妙な所だな。」
「で、どうするの?ケニーくん。」
「もし、アヤカがわいに言い寄ってきたら、わいが本当のこと言うたるわ。最終的にはな。」ケネスはため息をついた。「あんさんがやってることは犯罪まがいのことや、っちゅうことをわいが言うて聞かしたる。あいつも人間なら、自分の行為を反省して、考え方を変えなあかん、思うはずや。」
「ケニー、」
「1パーセントの希望がアヤカを救うかもしれへん。」