故障-1
「ケ、ケン兄!イって、イって!」マユミが息を荒げて叫んだ。
ケンジとマユミは同じように身体を激しく波打たせ、クライマックスを迎えようとしていた。
「マ、マユっ!あああ、俺、も、もう・・・」ケンジはマユミを抱いた腕に力を込めた。そしてマユミの柔らかな胸に顔を埋め、呻いた。「で、出る!出るっ!」
びゅるるっ!びゅくっ!びゅく、びゅく、びゅく・・・びく・・・・・びくん・・・・・・。
二人の動きが止まった。マユミは愛しい兄の体液が自分の中に放出されるのを満ち足りた気分で味わった。上になったケンジは、妹を抱きしめたまま、はあはあとまだ大きく喘いでいた。
やがて、二人は身体を横たえ、ケンジは優しくマユミの髪を撫でた。
「ケン兄、今日は激しかった・・・・。」
「そうかな。イヤだったか?」
「ううん。あたしも燃えた。」
「そうか。よかった。」ケンジはマユミにキスをした。
「何かあったの?」
ケンジは少し考えてから言った。
「マユには隠さずに何でも言うことにする。」
「隠すようなこと?」
「いや、お前の気分を害するようなことかもしれない、ってとこかな。」
「言って。大丈夫。」
「実は今日アヤカにコクられた。」
「アヤカって、ケン兄の水泳部のマネージャーだよね。」
「そう。あいつだ。」
「すっごい美人だよね、アヤカさんって。それにスタイルも良くてセクシーだし。」
「何が言いたいんだ?マユ。」
「で?OKしたの?」
「するわけないだろ!」
「何で?だってアヤカさん、男子部員の憧れなんでしょ?あたしの学校の水泳部の男子も狙ってたよ、何人も。」
「お前、俺がアヤカとつき合ってもいいのかよ。」
「いや。」
「だろ?だったらあれこれ突っ込まないでくれ。」ケンジは少し赤くなった。
「ケン兄なら大丈夫だね。」マユミはケンジの逞しい胸に頬を寄せて目を閉じた。まだ収まりきれないケンジの鼓動を聞きながら、彼女は自分の身体の火照りがゆっくりと冷めていくのを待った。
ケンジの学校の水泳部マネージャーの中でもひときわ目を引く存在がアヤカだった。そのルックスもさることながら、丈が短く小さなタンクトップの脇から見える形のいい乳房、裾からちらりとのぞくへそ、ぴったりと腰に張り付いた真っ赤なショートパンツ。男子部員の志気を昂揚させるには十分すぎる格好で、いつも練習の時に動き回っていた。頭も切れ、スケジュール管理も部員の健康管理も他のマネージャー陣の追随を許さなかった。
「アヤカ抱きてー!」
「お前にゃ無理だよ。高嶺の花ってやつさ。」
「高校生離れしてるよな、あいつのオーラ。」
「内緒だけどな、俺、あいつの写真持ってるぞ。」
「なにっ?!」
「時々それでヌいてる。」
「スケベ野郎め!」
そういう男子部員の会話が時々こそこそと繰り広げられる水泳部だった。
「そう言えば最近、アヤカってケンジに異様に絡んでないか?」
「俺もそう思う。モーションかけてるんかね?」
「だけどケンジ、全然そんな気なさそうだけど。」
「誰かとつき合ってんのか?あいつ。」
「そんな話も聞かないけどな。」
「学校では女っ気ないよな、ケンジ。」
「何人もの女子から狙われてるのに、よくまああそこまでストイックに振る舞えるもんだぜ。」
「ひょっとして、対象が、男?」
「も、もしそうだったら、俺たちヤツの餌食だぜ。」
「やめろよ、そんな想像。」
「ジョークだよ、ジョーク。」
「もう春の大会直前だが、海棠、お前どうしたんだ?」プールから上がったばかりのケンジに近づいてきたのは、水泳部の若いコーチだった。
「すいません。」
「何かあったのか?」
「いえ、フォームを少し変えてみたんです。」
「見てた。」コーチは腕を組んで言った。「うまくいけば記録は伸びるかもしれん。が、お前にそれが合ってるかどうかってのは、ある意味賭けだ。」
「ですよね。」
「それに、」コーチの声が真剣味を増した。「下手をすると筋肉を痛める。」
「え?」
「お前の腕の筋肉の付き方で、あのフォームには少し無理がある。」
「そうですか・・・。」
「向上心は認めるが、故障したらアウトだぞ。」
「・・・・・・。」
「大会直前だ。考え直せ。」
「・・・・・。」しばらくうつむいていたケンジは、顔を上げてコーチの目をまっすぐに見ながら言った。「明日までに答えを出します。」