第一章 卑劣な罠-6
大村が部屋を去り、ひとり呆然と立ち尽くす美優。
何とも言えぬ複雑な気持ちが、吐き気すら催すほど胸の中で渦巻いている。
不気味な時間を過ごしている中、大村が数分経ってからようやく姿を見せた。
「ああ、すみません、ちょっと準備するものがあったもんで。あれ、まだ脱いでなかったんですか? 早く脱がないと帰れなくなっちゃいますよ?」
あきれた表情で投げかけてきた大村の言葉に、美優の心に再び絶望が膨らんだ。
重い溜息が口をついた。
淡い期待を粉々に吹き飛ばされ、心の中がみるみる悲しみに包まれていく。
これまでの付き合いは一体なんだったのだろう……。
この人は最初からそう言う眼で私を見て、そういう思いで接していたのだろうか……。
込み上げてくる涙がじんわりと瞳を濡らし、それが頬のほうへ落ちそうになっている。
美優は観念したようにTシャツを持ち上げ、片方ずつゆっくりと腕を引き抜いていった。
露わになった胸元に、大村の視線を痛いほど感じた。
それが美優の呼吸を怯えさせるように乱していく。
薔薇の刺繍が入った純白のブラは、美優が大きく息づくたびに悩ましい膨らみを見せた。
「奥さん、何カップですか?」
大村がパンツ一丁でドカッと布団の上に腰を下ろし、厭らしく唇を歪めながら聞く。
「E……Eカップです」
美優は、首からTシャツを抜きながら素直に答えた。
「うんうん、良い大きさだね。身長はどれほどあるのかね?」
「たぶん、168センチくらいだと思います」
「だろうね〜、俺より高いもんね。俺が165センチだから、170はあるのかと思っていたよ」
さっきまで店内で見せていた営業スマイルで、ニコニコと笑顔を浮かべる大村。
美優は、その笑顔に酷くムカつきを覚えた。
良人の皮をかぶった悪魔。
この悪魔に一年間も騙されていたのかと思うと、悔しく、また自分が情けなくてしょうがない。
人を見る眼には自信があったのだが、それも一気に喪失してしまった。
とにかく嫌な事を早く済ませたい…美優は、下肢にピッチリと張り付いたクロップドパンツもそそくさと脱いだ。
「うーん、そそるね〜。下着姿だけでも二発ほどは抜けそうだな。奥さん、記念に写真撮ってもいいかな?」
「い、嫌です! 絶対に嫌です!」
あきれた事を言う大村に、美優が怒りを露わにする。
「はっはっは、冗談ですよ、冗談。さあさあ、次はいよいよ下着の番ですね。ここまでは完璧なボディだが、果たして中身はどうでしょうかね〜」
野卑に言いながら、大村が不気味な笑顔で歯を剥き出した。
そのおぞましい眼に射られながら、美優は震える指先でブラのホックを摘んだ。