第一章 卑劣な罠-3
「ふむ……たとえそうだとしてもね、旦那さんがこの写真をどう捉えるか。奥さんの旦那さん、たしか議員だったよね?」
メガネを正しながら、大村が意地悪そうに言う。
「お、夫は関係ありません! お願いしますから、こんな写真いますぐ破棄してください!」
美優は懇願した。
写真の背景には、いかがわしいホテルの名前まできっちりと写り込んでいる。
実際に浮気をしていないにしても、まず疑わぬほうが無理だろう。
また、この写真がもし夫だけでなくマスコミにでも流れてしまったら、夫の政治生命にまで危険が及んでしまうだろう。
美優は、祈るような気持ちで深々と頭を下げた。
あまりの衝撃に、誰がどのようにして撮影したのかなんてことは、まったく脳裏に浮かんでいなかった。
「奥さん、取引しませんか?」
「えっ?」
大村の言葉に、美優はサッと顔を上げた。
黒ぶちメガネの奥にある眼が、先ほどの優しそうな感じから一気に淫靡めいたものへと変わっている。
その眼は、白のクロップドパンツから露出している足首をジッと見つめ、そこから舐めるような粘っこさで視線を上に向けていた。
この日、美優は淡いピンク色のTシャツにクロップドパンツというラフなものだった。
がゆえに、その鋭い視線が胸元を捉えたとき、大村の卑猥めいた情感を痛いほど感じてならなかった。
「あ、あの……取引って、どういうことでしょうか?」
美優が、おそるおそる聞く。
「奥さんの身体を私に提供してください。そうしたら写真とネガは渡します」
「!?」
美優がうっすらと予感していたことを、大村は躊躇することなくハッキリと口にしてきた。
「そ、そんなこと、そんなこと出来ません!」
「そうですか、なら残念だけど……マスコミにでも売るかな」
「マ、マスコミ!? ど、どうしてそんなことを……」
美優があわてて眼を向ける。
「高く買ってくれそうじゃないですか。ふふっ、それじゃあ、そういうことで」
大村はニヤリと口元を歪ませると、さっさと奥のほうへ引っ込んでいってしまった。
ギュウッと唇を噛み締めながら、切れ長の眼で瞬きもせず大村の残像を睨み続ける美優。
あまりにも卑劣な言動……身体中に虫唾が走った。
切れ長の眼をグッと細め、何か手はないかと必死に考える。
が、しかし、無常にもこの状況を打開する策は何も浮かんでこなかった。
美優は地団駄を踏んだ。
大村がもしマスコミにでも流したりしたら……そう思うと、焦りばかりが募っていく。
美優は、自分の軽率な行動を酷く呪った。