第一章 卑劣な罠-2
「大村さん、すみません。まだ買い物の途中なので帰りますね」
「ああ、そっか。ごめんね、くだらない話で時間つぶさせちゃって」
「いえ、そんなことないですよ。また楽しい話、聞かせてくださいね」
そう言って踵を返そうとした、まさにその瞬間から悪夢がはじまった。
ちょっと待ってくれと言う大村に、再び顔を向ける美優。
「奥さん、最後にコレを見てってくれないかなぁ」
大村が珍しく真剣な表情で、数枚の写真を差し出してきた。
「えっ、何ですか?」
訝しげに写真を受け取り、それを一枚ずつ眺めていく。
暗い中、なにやら二人の人間がぼんやりと遠くに写っている。
「えっ―――!?」
美優は愕然とした。
遠くからのアングルで撮られているその写真は、ホテルに入っていく男女を写し出していた。
一枚目と二枚目は、遠すぎて男女の顔がハッキリと分からない。しかし、三枚目には女の横顔がアップで写し出されていた。
その女の横顔は……なんと、美優自身だったのだ。
「こ、これは……」
驚きのあまり、思うように声をだせないでいる美優。
「奥さんって、まだ新婚さんだったよね。なのに、もう浮気するなんてさ……ちょっと早すぎませんか?」
美優は言葉を失った。
どうしてこんな写真をこの男が持っているのか―――。
一瞬にして恐怖で身体が凍りついた。
「これを旦那に見せたら、さてさて、どうなるだろうかね?」
大村の言葉に、美優の表情が強張っていく。
「ちょ、ちょっと待ってください! 私、浮気なんてしていません! これは誤解です!」
「奥さん、ラブホの前でこんなにイチャついてて、いまさら浮気してないはないでしょう」
大村が、あきれたように笑う。
「ほ、本当なんです! 先日、同窓会があって……そのとき私、ちょっと飲みすぎてしまって……それで、仲のよかった男友達に送ってもらっていたんですけど、何気にホテルへ連れて行こうとしたのでキッパリと断ったんです。そしてこの後、すぐに一人で帰ったんです! けっしてホテルなんかには入っていません! 信じてください」
美優は、流麗な眉のはしを釣り上げながら、強くこれが誤解であることを主張した。