第一章 卑劣な罠-14
「はああ……最高に気持ち良かったよ、奥さん」
大量に吐き出した汚濁汁を一滴もこぼさぬよう、大村がゆっくりと美唇からペニスを引き抜いていく。
美貌を悲しみに歪めながら唇を閉じる美優。
込み上げてくる激しい嘔吐感に、胃液が喉のほうへと押し上がってくる。
これで終わりにしてくれるかもしれない……そんな思いが、美優の気力を支えていた。
「んっ、んんっ……んぐっ」
こんな不快なもの、できることなら一気に飲み込んで終わりにしたかった。
しかし、あまりにも量が多く、それは出来そうにない。
それでも、口の中で粘っこく広がっている大量の汚濁汁に唾液を加えながら、あからさまに嫌な表情で少しずつ嚥下していった。
「いい表情だね、奥さん。実にそそられるよ。美しい顔に浮かぶ苦しみの表情は、男の性欲をひどく煽ってくれる」
大村が満足げに言い、苦悶の表情を浮かべている美貌を両手で挟み込む。
美優は咄嗟に瞳を伏せた。
卑劣な男の顔など、とても正視できる状態ではなかった。
「奥さん、今後は私が貴女を気持ちよくしてあげますよ。ふふっ」
大村の口から吐き出されてくる息が鼻腔をつき、それが峻烈に憎悪と嫌悪を募らせていく。
その生温かな息をさらに近くで感じたとき、嫌な予感に美優がパッと眼を開けた。
「やめてっ!」
唇を重ねようとしてくる大村に、自由のきかない顔を懸命に背けながら両手を突き伸ばす。
だが、華奢な男は意外にも力強かった。
「やっ……いやっ……」
自分の無力さを思い知らされても、美優はそれでも頑なに抵抗してみせた。
奪われそうになる唇をキュッと強く引き結ぶ。
キスだけは許したくなかった。
唇を重ねると、心までもが汚辱にまみれてしまいそうで怖かった。
「お願いします、キスは許してください!」
「ふんっ、何をいまさら」
「い、嫌ッ……ん、んん」
哀訴もむなしく、あっさりと陵辱されていく唇。
「んん……やっ、いやぁ……うんん」
大村が自身の薄っぺらい唇を強く押し当て、両手で美貌を挟みこんだまま美優の身体を後ろへと押し倒していく。
「ん、んんっ……んん、んんっ!」
右往左往しながら横たわっていく汗みどろの裸体。
上から体重をかけて圧し掛かってくる大村に、美優は観念するしかなかった。
ゆっくりと抵抗力を弱めていく美優の態度に、大村がほくそ笑みながら舌を突き出していく。
唇をこじ開け、強引に口腔内への侵入を試みる。
せめてそれだけは避けたいと、美優はかたく口を閉じた。
がっちりと噛み合わせた白い歯を、けっして開けようとはしなかった。