電撃告白タイム-3
ぺちっ!「いてっ!」緑色の小さな粒がケンジのほっぺたに当たって、テーブルに転がった。「ちょっと、ミカ先輩、枝豆飛ばすの、やめてくれません?」
「海棠は枝豆は嫌いか?」
「飛んでくる枝豆をどうしろって言うんです?」
「やっぱりミカ先輩、今日は変だ。半分壊れてる。」小泉が眼鏡をシャツの裾で拭きながら言った。
「いつもだいたいこんなもんだけどね。」美紀が言ってジョッキを持ち上げた。
「ところで、」堅城もジョッキを口に運びながらケンジに言った。「おまえ、二十歳になったんだから、もう飲めるんだろ?なんで一人だけウーロン茶なんだよ。」
「い、いや、俺、ビールにはあまりいい思い出がなくてさ。」
「なに?きさまフライングしたのか?」
「あのな、」ミカがおかしそうに言った。「海棠は一年前、自分の部屋でビール飲み過ぎて、酔っ払っちまってな、」
「あああーっ!ミカ先輩!それ以上はだめっ!」ケンジは真っ赤になっていた。
「何慌ててるの?海棠君。」美紀が怪訝な顔をして訊いた。
「一人でバースデーパーティやって盛り下がってやんの。あっはっは!いやあ、傑作だったね。」
「ミカ先輩、なんでその海棠の一人のパーティのこと、知ってるんすか?」久宝が訊いた。
「あたしの部屋はこいつの部屋の真下だ。上の部屋から異様な物音がしたから訪ねたら、こいつ、酔っ払って暴れてた。」
「暴れてません。」ケンジが言った。
「あたしが行ってからか、暴れたの。」
「ちょ、ちょっとちょっと!ミカ先輩、やめて下さい。」
「さっきから挙動不審だよ、海棠君。」美紀が揚げ出し豆腐を箸で二等分にしながら言った。
「と、とにかく、俺、一年前に飲み過ぎて、ミカ先輩に迷惑かけちまったから、未だにビールを飲むのに抵抗があるんです。それだけです、それだけ。」
「かけたの、迷惑だけじゃなかったよな。」ミカがぼそっと言った。
「いいじゃねえか。それだけなら。」堅城が言った。
「えらくムキになってるとこ見ると、それだけじゃなかったんじゃないのか?」小泉が眼鏡を紙ナプキンで拭きながら言った。
「お、おい小泉、おまえ、さっきも眼鏡拭いてたぞ。なんでそんなに頻繁に眼鏡拭きたがるかな。」ケンジがムキになって言った。
「さっきおしぼりで拭いたら、思いっきり曇っちまったんだ。話をそらすな、海棠。」
「それだけじゃなかったんすか?ミカ先輩。」テーブルを離れていた久宝が、手に焼き鳥の串盛り合わせを持ってやって来た。「これ、サービスです。いつも先輩たちにはお世話になってっから。」
「おお!済まないね。久宝。いいとこあるじゃん。それだけじゃなかったんだよ、実は。」
ケンジは誰が見てもそわそわしているように腰をもぞつかせた。
「言っていい?海棠。」
「だ、だめですっ!」
「だめか。やっぱり。」
「と、当然ですっ!」ケンジは正座をして身を固くしたまま言った。
「でも、みんな知りたがってるよ?」
「だめですっ!絶対。」
「しょーがない。この店出る時、教えてやるよ。みんなに。」
「だめったら、だめですっ!」