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夢拾参夜
【二次創作 その他小説】

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夢拾参夜-6

第拾壱夜

 こんな夢を見た。
「一度目だよ」
ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた。ぱら、ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら。くしゃ、くしゃくしゃくしゃっ。
「………」
ぼくは、音のした方向を見た。そこには、何も無かった。ただ、闇が広がるだけ。景色は、黒のマジックで塗り潰されているようだ。僅かな音だが、こうも集中してやられると苛々する。「二度目」
ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた。ぱら、ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら。くしゃ、くしゃくしゃくしゃっ。
「うるさい!」
「三度目」
ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた、ぽた。ぱら、ぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱらぱら。くしゃ、くしゃくしゃくしゃっ。
 目が覚めた。



第拾弐夜

 こんな夢を見た。
ぼくは神社の境内にいた。赤茶けた鳥居、古ぼけた建物、泥の付いた石畳。どこを見ても、何を見ても全てが古めかしい。ぼくは、毎日の日課である願掛けに来ていた。
「……かーごーめーかーごーめー、かーごのなーかのとーりーはー……いーつーいーつー出ーやーるー。夜ー明ーけーのーばーんにー……つーるとかーめがすーべったー。後ろのしょー面だーあれ?」
着物姿の子供たちが手を繋ぎ、輪を作って回る。輪の中には両手で顔を覆った、白い着物に赤い帯の少女が屈んでいた。ぼくは、その少女を知っていた。
「なぜ、君はその若さでぼくの前から消えてしまった?」
ぼくは、輪の中の彼女の手を引いた。彼女の体が、ふわりと浮く。その小さな体躯は、とても軽かった。
「君はぼくに言ったね。もし、ぼくより早く死んでしまったら白い着物を着てぼくに会いに来るって。ぼくは、毎日毎日君に会いたいと願っていたのに」
「………」
彼女は無言のままだった。ぼくは、それを同意として受け取った。
「会いに来てくれたんだね」
暗い暗い、昼間にも係わらずまだ暗い杜の中。彼女は、ぼくよりずっと若かった。若いというより、幼かった。彼女はぼくを見ず、呟く。高かった身長は低く、長い茶髪はおかっぱの黒髪に。
「……私は、あなたに会いたくなかったのに」
「どうして!」
ぼくは叫んだ。
「会ってはいけないからよ。あなた、日本書紀を知らないの? イザナギは、死んだ自分の妻のイザナミを黄泉の国まで探しに行った」
「そうさ、それはイザナギがイザナミを愛していたからだろう?」
ぼくは、必死に言葉を紡ぐ。彼女を失いたくない、ただそれだけだった。彼女はぼくを避けるように、視線を逃す。しかし。幼い顔立ちは、日本書紀の一節の粗筋を語り続ける。
「待って、続きがあるの。当然、イザナギとイザナミは愛し合っていたと思うわ。以前の私達のように、ね。だけど、イザナギは変わり果てた妻の姿を見て逃げたのよ」
黄泉の国から解放されたイザナミは、黄泉平坂を歩くイザナギの後をついていく。その際に、イザナギは『決して振り返らず、イザナミの顔を見ない』という約束を交わした。
「ぼくは、君がどんな姿であろうと逃げない!」
イザナギは、イザナミを裏切った。
「無理だわ」
彼女は、ぼくの前から再び姿を消した。ぼくは悲しさと不甲斐無さのあまり、三日三晩泣き続けた。
 日が落ち、月が昇り、月が落ち、日が昇りと何度繰り返しただろうか。ぼくは、もう忘れてしまった。長いこと待ち続け、ぼくの頭髪はすっかり白くなった。腰も曲がり、声は枯れるようになった。自分の周りでは同年代の知り合いもいなくなり、とうとうぼくは一人になった。
 と、ある日のことだった。
「やっと、会いに来ることが出来ました」
彼女は微笑んだ。この辺りでは見かけない美人だった。既に立てなくなったぼくは床に入ったまま、首だけを動かして彼女を見た。
「……あなたは……、誰……だったかね……?」
「嫌だわ、たった六十年程度で私のことを忘れてしまったの?」
大きな目は、悲しそうにぼくを捉えた。ぼくは、ハッとした。
「随分……、遅かったじゃないか……」
「ごめんなさい」
彼女は悲しそうに微笑んだ。

―――彼女は、ぼくに二度も会いに来てくれた。

 目が覚めた。


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