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夢拾参夜
【二次創作 その他小説】

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夢拾参夜-4

第漆夜

 こんな夢を見た。
ぼくは、ある骨董品店にいた。
「いらっしゃい」
別に、来るつもりは無かった。
「良い物が入っているよ」
にやり、と老人は笑った。男か女かさえ解らない風貌は、奇妙な雰囲気を醸し出している。
「あんたが、うーんと欲しがっていた物さ」
「ぼくは何も欲しいとは、言ってないのですが」
老人は、店の奥へと進んでいく。ぼくは、慌ててそれを追いかけた。薄気味悪い物が、所狭しと並んでいる。眼球の薬漬け、鼠の干乾びた物、腐りかけの蛇。挙句の果てには、死んでいるのか生きているのかさえも解らないような人間までも転がしてある。
「あんた、魚が欲しいって言ってたろう?」
目の前には、大きな水槽があった。淡水魚にも見えるし、海水魚にも見える不思議な魚だった。
「これは」
何ですか、と訊く前に言われた。
「世にも珍しい、溺れる魚だよ」
「は?」
老人は、不快に感じるほどけたたましく笑った。
「魚といえば、泳ぐものですよね?」
「ひひひ……、なら見て御覧」
ぼくは、水槽に目を移した。ごく普通の、何の変哲も無い魚だった。姿形だけに注目すれば、鮒に近い。しかし、平均的な鮒のサイズを軽く超えている。いや、普通の魚ならば溺れるということがありえない。

―――パシャン。

 濁った水の中、確かにその鮒らしき生き物は溺れた。本来、水中でしか生きることが出来ない魚。その姿は酷く滑稽だった。水飛沫を上げ、懸命にもがく。
「あんたが欲しがるはずだ、あんたに瓜二つだもんなぁ」
「ぼくに、似ている……?」
ぼくは水槽に顔を近付けた。もしも、魚に表情があるとしたら悲しそうな顔をしていたとでもいうのだろうか。それはぼくの方を見て、口をパクパクさせ、何かを訴えているようでもあった。
「そうさ、そっくりだ。アップアップして、既に溺れているようなもんだよ」
老人はにやにやと笑いつつ、水槽を小突いていた。まるで、「このあんたの分身がどうなろうと知ったこっちゃあないが、買うなら早く買わないと」とでも言っているようだった。

「この溺れる魚、……下さい」
ぼくは、溜め息を吐いた。

―――仕方ないじゃないか、ぼくに似ているというのだから。
―――確かに似ているよ、人生に溺れているもの同士。
―――まぁ、仲良くやろうじゃないか。
―――な、鮒もどき?

「毎度有りぃ」
老人は、ぼくに水槽ごと手渡した。いつの間にか、鮒もどきは再び泳ぎ出していた。

―――な、人間もどき?

 誰かが、そう言ったような気がした。
 目が覚めた。



第捌夜
 こんな夢を見た。
ぼくは普段から、休日でも朝六時には目覚めることにしている。大した意味は無い、ただ長いこと祖父と暮らしていたので習慣化しているのだ。体を起こし、雨戸を開ける。昨夜の天気予報では、今日も天気は良いらしい。
―――ガラガラ……。
「……は?」
ぼくは暗闇に独り、呆然としていた。眼鏡を掛け、卓上のアナログ時計を見る。午前六時三分、の文字が光っている。
「何だよ、これ……」
決して曇り空や、雨が降っているわけではない。もう一度、外を見る。深夜のような視界、真冬のような空気。あまりの寒さに、歯がガチガチと鳴る。ぼくは窓を閉め、テレビの電源を入れた。全くもって、ぼくには訳が解らない。
「あれ?」
テレビの電源が入らない。
「つけって!」
ぼくは怒鳴り散らした。普段と違う様子が、ぼくに癇癪を起こさせていた。しかし、そんなことをしていても仕方が無い。一度電源を切り、再び入れる。
 しばらく待ってみるが、電源の入る様子は無い。
「だから……、何でつかない?」
ぼくは何度かそれを繰り返したが、すぐに諦めた。

―――いつまで待っても、独りってことですか?
―――誰かを待ち続ける、物語のヒロイン気取りですか?
―――いいや、待っていよう。
―――こうなったら、ずっと待ち続けよう。
―――ずっと待ち続けてやる、あの人が来るまで。

 その頃には、きっと辺りも明るくなるだろう。夜も明け、朝が来るだろう。その頃には、ぼくも独りでは無くなるだろう。そう、思った。
 目が覚めた。


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