勝利の女神は側にいる-7
−ホールの前。正直、入るのに少し、ためらっていた。やはり、彼女の事が気になる。怒っていないだろうか、僕と話をしてくれるだろうか…
《それより、彼女が休みだったらマヌケだなぁ…》
『あっ!フミ君じゃない。』
後ろから肩を叩かれた。彼女だった。
『えっ!?お…おはよぉ…』
『どうしたの、こんな昼間から?もしかして、昨日の話ってホント…?』
『昨日の話?まさか、明人さん?』
『やっぱりぃ!!昨日、聞いたんだ。フミ君が仕事辞めちゃうかもって。で、相談に乗ってやってくれ、みたいな事も言われて…ところであの人、明人さんって言うんだぁ。フミ君の上司さん?』
彼女も、大体の話は明人さんから聞いていたみたいだ。
『う…うん。僕の上司だよ。ところで祐子ちゃん、今日の仕事は?』
『私?私は今日、休み。実はココに来たのも、その上司さんに頼まれたんだ。必ずフミ君が来るから、って言われて。』
ひょっとして僕達、明人さんの掌の上状態?
『そ、そうなんだ。ところで…祐子ちゃん、お昼ご飯食べた?』
思い切って聞いてみた。僕にしてみたら、かなりの勇気が必要な発言だった。
『まだ〜っ!食べに行こっかぁ。何にする?』
最高に嬉しい返事と、メチャクチャ可愛い笑顔が戻ってきた。
『じゃ、祐子ちゃんが好きなのでイイよ。』
財布の中身を確認しながらそう言った。しかし…
『そんじゃねぇ…』
『ご…ごめん、祐子ちゃん…ファミレスでイイ…?』
昨日のボロ負けが響いていた。中には5000円札一枚だけ…
『ん、もちろんだよっ!!最初からそのつもりだったから。それにフミ君、昨日は相当負けてたみたいだったし。』
バレバレ…
情けなくなってきた。気落ちする僕。けど、彼女は笑顔で僕を見ている。気を遣っているのか、それとも…
−店から少し歩いたとこに、大型チェーンのファミレスがある。
…ガーッ!
『いらっしゃいませっ!2名様でしょうか?』
ファミレス定番のセリフ。二人で喫煙席に案内された。
『お腹減ったぁ〜。』
『祐子ちゃんは何にする?』
二人でメニューとにらめっこ。
『私はぁ…カルボナーラとドリンクバーで。』
『じゃ僕は、チーズハンバーグセットにドリンクかな。サラダとかはいらない?』
『イイの?じゃ、シーザーサラダも追加で。』
オーダーを取り終えた店員が奥に戻り、グラスを置きにきた。
彼女がアイスティー、僕がペプシを持って、テーブルに戻る。
『ところでさぁ…』
座った途端、彼女の方から話し始めた。
『左のほっぺ、真っ赤になって腫れてるけど虫歯か何か?』
『あっ、実は…』
ウソをついても意味がない。そう思った僕は彼女に全てを打ち明けた。
−『なるほどねぇ…』
サラダを食べながら彼女が答えた。僕の方はイマイチ、食が進まない。
『でもさぁ、フミ君も反省してるんでしょ?だったらちゃんと、社長さんに謝ってこなきゃね。それでもクビになったら、ウチで働けばイイじゃん。フミ君ならみんな、大歓迎だよっ!』
社交辞令かもしれない。けど、僕にとっては嬉しい一言。
ただ、今の僕は違った。
『ありがとう、祐子ちゃん。でも僕…そんなの出来ないよ。僕は必ず、社長に謝罪して戻るつもり。』
僕の言葉を真剣な表情で聞く彼女。
『それに、前もって保険をかけとくのはズルいと思う。あっちがダメだったから、こっちに来ましたなんて考え持ってたなら、また社長に怒られちゃうよ。』
『ふ〜ん…』
『祐子ちゃんの申し入れはありがたいよ。だけど僕は、絶対に会社に戻るからっ。』
知らないウチに熱っぽく語っていた。それをじっと見つめていた彼女。
『…フミ君さぁ、何か今、凄くカッコよく見えちゃったよ。スロットしてる時と同じくらい、真剣な顔してる。』
今、どんな顔をしているのかは分からない。でも、スロットしてる時と同じってのは…
『でもさぁ、会社にはいつ行くつもりなの?早く社長さんに謝ってこなきゃ。』
彼女の発言を聞いて悩む。明人さんは先に彼女の方を、でも彼女は先に社長の方を…
僕にとってはどちらも大事。緊張に耐えられず、無意識にタバコに火を点けた。
『珍しいね、タバコ吸うなんて。ホールでもめったに吸わないのに。』
僕は緊張したり、焦った時にしかタバコを吸わない。
『えっ…』
『あっ、気にしないで。私は大丈夫だから。』
慌ててタバコを揉み消す。
少し考える僕。そして意を決して言った。