勝利の女神は側にいる-10
『あのさぁ…ウチ来ない?』
いきなりの提案。破壊力バツグンの一言に、我を忘れる。
『祐子ちゃん…』
『あっ!でも、変に意識しないでね。イイ店もないんだし、落ち着いて飲むにはイイし、安上がりだから。』
何かうろたえている。彼女も緊張している。さすがに今回は分かった。
『じゃ、先にコンビニ行こうか。ビールとか買いにさぁ。』
彼女に恥をかかせたくないのと同時に、何となく気分が落ち着いていた。そしたら、普通に言葉が出る。僕的に、かなり大胆な発言も出来た。
『う、うん…そうしよ…』
うつむいて答えた彼女。彼女の手を取って、ゲーセンを出た。
−『少し散らかってるけど…』
コンビニの袋を持って、彼女の家に上がる。ワンルームのマンション。部屋にはロフトまで付いてる。
『広いなぁ。僕の部屋より…』
『でもこの部屋、私より年上だよ。ロフトは増築じゃないかな?』
他愛のない話をしながらテーブルにビールとおつまみを広げる。
『じゃ、かんぱ〜いっ!』
…カコンッ!
缶を合わせ、一口飲む。彼女は一気だ。
…ゴクッゴクッ…
『ぷはぁ〜っ!ウマいっ!!』
『祐子ちゃん、何かオヤジ入ってるねぇ…』
『だって、ノド乾いてんだからぁ。そんな事、言わないのっ!』
おでこを平手で叩かれた。いつも以上に陽気な彼女を見て、僕もビールが進む。今日のお酒もウマくなりそうだ。
−『らからねぇ〜、フミ君はさぁ、そぉんなろこがぁ、ダメらんらからぁ…』
2本空けた時点でベロベロになった彼女。かなりお酒に弱いみたいだ。
『ねぇ…大丈夫なの、祐子ちゃん…?』
『ん、らいじょうぶらいじょうぶっ!フミ君、飲んでっかっ!』
完璧に大丈夫じゃない。
僕はかなり酒が強い。大学時代、先輩にムリに飲まされた事があったが、逆に先輩を潰した経験がある。
『ちょっろ…』
彼女が立ち上がる。が、足が付いていかない。フラフラしながら倒れこんだ。
…ガタガタッ!
『祐子ちゃん…』
『ごめぇんっ!らいじょうぶ?』
倒れた勢いで、僕に乗っかった。何とか押さえたが、若干酔いが回っているからか、支えきれなかった。
『ごめんれぇ〜。私、酔ってる…』
『う、うん。それはイイけど…』
『あのれぇ、私さぁ…』
彼女が乗ったまた話し始めた。そんなには重く感じない。背が小さいのとウエストが細いからか、かなり軽いと思う。
『かなり、お酒大好きらけどぉ、弱いんらぁ。』
『じゃ、何でそんなに…』
『らってぇ…フミ君と飲んれるからぁ。すんごいドキドキしてるんらからぁ…』
そう言って、僕の左の頬に胸を押しつけてきた。
『痛っ!』
『あっ、ごめぇん…』
申し訳なさそうな目で僕を見た。
『大丈夫だよ。ちょっと痛むけど、酒飲めば鈍くなるから。』
『れもぉ、痛いんれしょ?』
ぐっと顔を近付ける。手を握り、足を絡めてくる。
『それより、この体勢…』
彼女の体の密着度が上がると同時に、僕の下半身が熱くなってきた。
『あれぇ〜?何か当たってるんれすけろぉ…』
悪戯っ子ぽく笑う彼女。太ももを膨らみに当ててきた。
『ちょ、ちょっと!』
『イヤぁ?』
イヤじゃないけど、あまりにも唐突すぎて驚いていた僕。
すると、彼女の顔が耳元に近づいてきた。
『あのねぇ…しよっか…?』
『えぇぇぇっっっ!?』
急に起き上がる。驚きに輪をかけた。もはや、驚愕。彼女は僕に抱き付いたまま。
『私じゃイヤ?』
思いっ切り何度も首を横に振る。冷静さのかけらもない。
『じゃ、証拠を見せてよぉ…』
そう言って、唇を重ねてきた。彼女の手が、僕の頭を押さえ付ける。
…ぬちゃ、ぐちゃ、ぴちゃ…
唇が離れても、舌先同士が触れている。絡めたままのそれが蠢く。酔いも手伝ってなのか、彼女の目が妖しい。
彼女の指が僕の首筋を撫で、そのままワイシャツの隙間から潜り込む。
温かい手のひら。胸に当てたままだ。
『ドキドキしてる?』
『う、うん…』
『じゃ、もっとドキドキさせよっ!』
そのまま立ち上がって電気を消した彼女。豆電気の少しの明かりの中、手を引かれる。
『こっち…』
いきなり、強く手を引っ張られた。そしてハシゴを登らされ、ロフトの上に。
二人が布団の上に座る。そして、彼女からの抱擁。気にしているのか、右側の頬に顔を擦り付けてくる。