#04 研修旅行――三日目-8
「もお、なんでそそくさと帰っちゃうんですか?」
「あ?解散っつってたろうが。帰っていいんだろ?」
「あ、いえ、ダメではないんですよ?でも、ひとりで帰ることもないですか、せっかくなんですから」
「そのせっかくってのはなんにかかってんだよ。私のお守りは研修旅行中のはずだろ?もう終わったじゃん」
「そ、それはそうなんですけど……」
「んじゃ、オッツカレ〜」
「あ……」
やばい、やばい。帰路まで一緒とかどんだけ仲良しなんだっつーの。
と、私は林田を言いくるめ踵を返したときだ。
「ぅぐっ!」
首が絞まった。どうやら、襟を取られたようである。
私はもう一度振り返った。
すると、すぐ背後にはズンッと相原が佇んでいた。
私の襟を右手でしっかりと掴んでおり、話す気はいっこうになさそうだ。
なんとか振りほどこうともがいてみたが、体格差や身体能力差は歴然であった。
仕方なく、剣呑な眼差しを作った私は相原を見上げた。
「……んだよ?」
赤毛のショートカットが沈みかけた夕日を受けた燃え上がり、その影に入った小さな額の眉間には威嚇的なシワが刻まれている。
端的に言えば――怖い。
だから、私も強気に出れなかったのである。
「貴女も、楽しかったんでしょう?」
「……ハイ」
なかなかハスキーな声が、また沸々とした雰囲気をかもし出していた。
思わず敬語になってしまった。
だが、ふと、彼女の問いの本質に気付いた私は当初の勢いを取り戻す。
「って、コラ、相原!おまえ、聞き耳立ててやがったな、バスの中でっ!」
「岐島くんが苛められていないか、心配だっただけ」
「アレをどうしたらいじめられんだよ!逆に教えてくれ!」
「まあ、そうみたい。でも……楽しかったんでしょ?」
「ぁ……の…………ぐぬぅ」
話題が原点回帰し、私の気勢は一瞬でしぼんでしまった。
ヤロウ。大人しそうに見えて、どうしようもなく面倒くせえ。
私と相原はにらみ合った。
けれども、そこで急にデカ女の強面が溶けた。
その薄い唇に小さな笑みが浮かべられる。