The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-7
戦闘開始と共にヴァルキリーの隊は散開した。
アイサは左城壁へ向け駆け出し、城壁の敵を縦状のアイスブラストで確実に仕留めていく。
そのため城壁のバイサス軍は一斉に彼女を集中して攻撃した。
彼女は攻撃の手を止め攻撃回避に集中する。
しかし、それがアイサの狙いだった。
アイサに城壁部隊の攻撃が集中することによって、
城門付近では左方からの援護がなくなったバイサス軍は苦戦を強いられる事となった。
彼女は華麗に攻撃をかわす。
その度に彼女の髪が美しく舞った。
アイサは雪原戦で弟を亡くしたのは彼女自身に非があると思い込んだ。
ノヴァとの戦いで我を忘れてしまったがために、弟の傍を離れてしまった事を悔いた。
そして弟の死を受け入れ、もっと自分自身強くなることを決意したアイサ。
もう誰も傷つけさせやしないと、そのために自分が為すべきことを全力でやろうと。
華麗に跳び、駆け、隙を窺いつつ攻撃を繰り出すアイサからは、雪原戦の悲しみは既に感じ取れない。
城門前で敵を殲滅するノヴァは、左城壁部隊からの援護攻撃がないことに気がついた。
苦戦をしているのだろうと思い、左方へ自らが救援に向かう。
駆け出していると雪原戦で見慣れた女が城壁部隊の攻撃を見事にかわしつつ、
縦状のアイスブラストで確実に城壁部隊を殲滅している姿を発見した。
(あの時の女ね…。
まぁ挨拶もなしに殺すのはなんだか嫌だけど、城壁に夢中になってるのが悪いわ。)
ノヴァは自分の姿に気がついていないアイサへ、城壁の攻撃をかわしている彼女の死角から、
縦状のアイスブラストを放った。
アイサは城壁上にいるシーフが横状のアイスブラストを放ったことで、大きく後ろへ跳んだ。
跳んだアイサの瞳には右から縦状のアイスブラストが、
先程彼女自身がいた場所を横一閃の威光となって映っていた。
アイサが氷の刃が飛んできた方へ一瞬視線を移せば、
雪原戦で辛酸を嘗めさせられたあの女がいた。
ノヴァの顔は仕損じたことによる不満の表情を見せていたが、
心中では雪原戦では倒せなかったが今度こそ仕留めるという、確固たる殺意があった。
そしてノヴァは彼女へ向かっていく。
戦闘を楽しむかのような笑みを浮かべながら。
城壁からの攻撃を避けつつ、あの女と遣り合うのはさすがに分が悪いと判断したアイサは、
ノヴァへ牽制の縦状のアイスブラストを放ち、同時に城壁の攻撃が届かない所まで後退する。
軽々とそれを左に避けるノヴァは、彼女を追い続ける。
そして二人の女シーフが対峙した。
「今日は随分と冷静みたいじゃない?」
ノヴァがそう言って口元を歪ませ笑みを表した。
アイサはその挑発を無言の横状のアイスブラストで返す。
一本のナイフが避け切れなかったノヴァの左足をかすめる。
「くっ、死ねっ!」
左城壁部隊は今まで標的だったアイサがいなくなったことで、再び城門付近へ援護攻撃を開始した。
ただし、バイサス軍が優勢というわけではなかった。
城門付近では乱戦になっている。
右城壁部隊はシューナ達イルスのウィザードの手により苦戦していたため、
彼等は城門付近へ援護攻撃ができていない。
そして城門付近で戦闘するバイサス、ジャイファン両陣営は保護魔法を徹底させており、
勢力は拮抗していた。
そのためジャイファン軍はやや城門よりに後方拠点を設け、城門での戦闘を円滑に行おうとした。
しかしそれにより悲劇が生じることとなる。
アイサとノヴァはお互い横状のアイスブラストを放ちあっていた。
ある時は攻撃をかわしつつ、またある時は攻撃の手を止め回避に転じることで相手の隙を窺い、
隙ができた瞬間を狙って放っていた。
そして両者共に相手がある程度の疲労と負傷を負ったところで、
縦状のアイスブラストで息の根を止めようとしている。
そして勝負の時は徐々に動き出す。
長時間の戦闘により、お互い保護魔法の効果は切れている。
そして殺傷能力は期待できない横状のアイスブラストでも、その状態で実力者の攻撃を受ければ、
十分脅威となる。
通常時であれば、ノヴァのほうがやや格上であるが、今のノヴァは雪原戦での右腕負傷により、
疲労が溜まるのが早い。
一方アイサも、この強者相手に疲労感を隠せなかった。
しかし直にこの不毛な戦いは終わる。
(あれは…プリーストか。)
アイサは気付いていないだろうが、彼女の後方にリーフがいる。
この状況で保護魔法をかけられては、明らかにノヴァの分が悪い。
そしてノヴァの思考が出した答えに、彼女の心は高らかに笑っていた。
ノヴァの右腕の傷が疼きだし、彼女は苦痛で顔を歪める。
不自然なほど大袈裟に演じていた。
それを見てアイサは好機と判断し、縦状のアイスブラストを放とうとするが、
ノヴァの牽制攻撃である横状のアイスブラストのほうが先だった。
ノヴァは左手を振り上げ、アイサの立つ左寄りの地へ放つ。
アイサは体を反転し左足で大地を蹴りそれを大きく右後方へ跳んで避ける。
ただし、苦痛で顔を歪めていたはずのノヴァは薄ら笑みを浮かべていた。
そしてどうぞと言わんばかりに両手を下げ、アイサを見つめている。
不審に思ったアイサはノヴァの動きを注視しながら、徐々に視界を後方へと向かせる。