The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-4
ぽっかりと開けられた穴からルアーノは城内へ侵入し、城門を開けた。
「何が起こるかわからん。
お前等、離れすぎずにお互いの距離を等間隔に保って進め。」
顔を見渡しながら静かに言い、周囲を警戒しながらルアーノは歩き出した。
城門から少し歩いたところで、中庭のような場所に出た。
そしてすぐに先程の断末魔の正体がわかった。
目の前には先ほどの地獄絵図ほどではないが、死屍が累々と広がっている。
庭園は優雅に整備されているのに、死体がその美しさを台無しにしている。
恐ろしく静寂で張り詰めた異様な空気が辺りを包んでいた。
「おい、戻るぞ、調査は後回しだ。
ここの敵はおそらく既に全滅している。
他の隊と合流するぞ。」
ルアーノの言葉はなんとか気丈さを保ってはいたが、
彼の思考と心はなんとも言えない恐怖と不安に襲われていた。
不可解な事件と共に、バイサス軍は山上要塞をジャイファン軍に無血開城する形となった。
アラン率いる部隊は、朝日が見えるとすぐさま敵陣に侵攻を開始した。
城門前に配備しているバイサス軍は、
城壁の部隊の攻撃射程にジャイファン軍が入るまでじっと待っていた。
アランもそれを承知で隊を進めている。
その代わり保護魔法を徹底させ、
危険だと思ったらすぐプリーストのいる後方へ下がるよう命じてある。
敵から攻める様子がない限り、後方の安全は保障される。
その代わり敵軍も周囲にプリーストを配置させ、保護魔法は徹底されているはずである。
こうなると、戦士やアーチャーの貫通技で保護魔法を貫通させ敵を徐々に倒す。
もしくは保護魔法が切れたところを、プリーストが新たに保護魔法をかける前に倒す方法しかない。
貫通技は範囲攻撃ではなく単体にしか効果がないため、いずれにせよ長期戦になるのは間違いない。
アランが貫通技を発動し、敵アーチャーの首を刎ねたその時だった。
アランに紅蓮のファイヤーバードが襲い掛かる。
火の鳥の速度はアーチャーやシーフといった俊敏な者であれば、避けることが可能な速度ではあるが、
戦士のアランにはそれは難しい。
まともに直撃を受ければ、いかに戦士の重厚な装備があっても全身を炎で包まれ焼け死ぬ。
アランは咄嗟に左手に持つ盾で全身を隠し右に飛んだ。
火の鳥の大半は盾によって掻き消されたが、僅かにアランの左腕を焼き払った。
彼を纏っていた保護魔法の効果が切れていた。
苦痛で顔を歪めるが、追撃をかわしながら彼は後方のプリーストの下へ駆け出す。
途中アランの背後を狙うシーフがいたが、味方のウィザードのファイヤーバードの援護により、
辛くも難を逃れた。
戦場ではこのような味方との連携などが命を救う場合が多々ある。
ゆえに熱くなり過ぎれば敵陣に単身飛び込み、集中砲火を受けて死ぬこともある。
味方と足並みを揃えつつ、索敵し攻撃しなければならない。
ただし突如後方へ下がるアランに頭痛が走る。
それは彼が火傷を負ったからではない。
あの定例会議の朝の、頭の芯を襲った痛みだった。
そしてその痛みはあの時よりも甚だしい。
思わずその場にへたり込みそうになるが、彼の足はそうさせなかった。
今立っている場所は戦地であり、そのような姿を露呈すれば死ぬ。
本能が彼を護ってくれた。
しかしあの日はこの頭痛に対し些か不安があったのだが、今はまったくもって鬱陶しい。
言葉にこそ出さないが、痛みが同居する脳の中で彼はそれに罵声を浴びせてやった。
すると痛みはしょぼくれながらではあるが、彼をどこか嘲笑いながら姿を消した。
後方のプリーストはアランを心配そうな面持ちで待ち受けていた。
「すまん、大丈夫だ。保護をくれ。」
プリーストの下へたどり着いたアランは回復ポーションを使い、
火傷を負った左腕を応急処置しながら保護魔法をかけてもらっている。
火傷によるものではない痛みがいなくなったので、脳は目の前の事に彼を集中させた。
そして、前線の様子を右から眺めていた時だった。
バイサス軍の伝令らしき人物が疾走してきた。
そしてその遠く後ろから、一人、山上要塞の方から疾走してくる。
アランは山上要塞からのルアーノ隊の伝令だろうと思い、
バイサス軍が何か動くのかと敵の動きに注意を払う。
しかし、思いがけない一言が彼の耳をかすかに襲った。