The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-36
リトがレクサスの下へやってくると、彼は目を瞑っていた。
彼女もまた、彼の隣で膝を屈める。
「ルアーノさんに言われた。俺が笑うとへらへらしてるように見えるから笑うなって。」
「そのとおりじゃない。」
何かおかしいことでもあるの? そう思わせる表情を彼女はしている。
目を開けるとレクサスは体を横に振り、リトをよろけさせる。
そして鼻で笑った。
「あっぶないなぁ。」
「行くぞ」
立ち上がり、彼女に左手を差し伸べる。
見上げる彼女は、もういいの? と尋ねた。
真直ぐアルフォンスの墓を見つめる眼差しは澄んでいた。
ああ、と微笑んで答えると、彼女は差し出された手を掴む。
それをひょいと引っ張り上げ、彼女を立たせる。
「ほら…やっぱり」
リトはそう言われた後なので余計に可笑しく思え、どっと笑みをこぼした。
彼は苦笑いをしつつ下唇を噛んでいる。
何か言い返そうとしても言葉が出ない。
ただ、リトが気持ち良さそうに笑っているのを見て、最早どうでも良くなった。
今度は不自然なほどに笑顔を彼女へ見せた。
彼女は苦しそうに左手で腹を押さえる。
墓地に似つかわしくない笑い声が響き渡る。
そうさせた彼自身もなんだか可笑しくなってきた。
その場を離れて行く笑顔の彼等の手は、しっかりと握られていた。
―――笑う理由…か
アランとレクサスは集会部屋を発った。
陽は沈みかけ西の空が焔色に染まっている。
それでも今はもう国土が、街が燃えることはない。
陰る部分がない程に廊下は夕焼けの一部になっていた。
そしてアランとレクサスが歩むと、もう1つの彼等が長く伸びる。
決して追い抜き去っているわけではないが、彼等はアランとレクサスよりも先を歩いていた。
「なんか…いいよな、こーゆーのって。」
「そうだな、…今更ながらにそう思うよ。
俺達は色々な物を見ようとはしなかったのかもしれないな。」
アランは昨晩のレクサスの言葉を思い出し、確かにそうだなと思った。
「小さな事に気がつかなかった、気がつけなかった。
そしてそのまま生きてきた。
…でも今はそうじゃない。
ちゃんと見れる、感じる事が出来る、わかる。
昨日の夜空見てても思ったけどよ、そんなことをできるってのが平和って言うか、
…幸せなのかもな。」
あぁ、きっとな、アランはそう言いながら、一歩一歩この焔色に染まった絨毯を踏締めていた。
この場所を、この穏やかな日々を忘れる事が無いように。
もう1つの彼等が突如半身を消していた。
廊下が終わっていた。
アランはそのまま城門のある右へと進路をとる。
だがレクサスは玉座のある2階へと続く左に進路をとっていた。
アランは彼がいないので振り向くと、へらへらと笑う顔を見せる彼がいた。
いつぞやのようなひと悶着は無く、リトはほくそ笑んでいた。
ただリーフだけが、なにやら抗議したげな顔をしている。
「それじゃぁアラン、リーフよろしくぅ〜。
レクサスぅ、かぁ〜えろっ。」
リトの声音がやけに高い。
そしてひどく似付かわしくないほど可憐に甘え、
とてとてとレクサスに歩み寄ると彼の腕に手を回した。
リーフは頬を紅く染める。
リトの行動が自分自身を真似ているものだと思った。
だがリトが必要以上にそうしているので恥ずかしくなった。
アランも同じ気持ちだった。
ここまでしてそうしろと強要する方が無理がある。
そんなアランの横をレクサス達は通り過ぎると、
じゃぁアラン、またな、と首だけを後ろへ向けて去っていった。
なんとも言いようがない雰囲気の中、アランは城門を抜けていく彼等を目で見送った。
色々な事があったが、良くも悪くもレクサスはレクサスのままだった。
ただ残った彼等は、このような状況で呆然としてしまうような以前とは違う。
小川の水を両手で掬うほどの僅かなものではあるが。
「えっと…、帰るか」
「…うん」
しばしの沈黙を破ったアランが歩き出すと、リーフも距離を置いたままそれに倣った。