The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-33
木々の間から雛鳥の声が聞こえている。
この世に生を授けられた自分が生きるために、必死に親鳥から餌を貰おうとしている。
力強く声を発するものにしか親鳥は餌を与えない。
既に生き残るための選別が始まっている。
強いものだけが生き残り子孫を残すことができる、それが自然の摂理。
それを本能として知っている。
ただし外敵に巣を荒らされ、強者が生き残るために餌として食われるという運の要素を、
果たして雛鳥は知っているのだろうか。
既にそのような事態を前にし、経験として学んでいるのであれば別であるが、
きっと、知っているのかもしれない。
彼等は今という時を懸命に生きている。
そうでなければこんなにも美しい命の音色を奏ではしないだろう。
レクサスとリトは集団墓地を訪れていた。
世界の脅威が消えた事によって、ルアーノとハームも久しぶりにアルフォンスの墓の前にいた。
お、ご苦労さん、レクサスとリトに気がついたルアーノが声を掛けた。
それに軽く会釈をすると、ごめん、ちょっとあっちに行くね、とリトはレクサスへ告げる。
ああ、わかった、という彼の返答を受けて、彼女はピノの墓へと歩いていった。
「そういえば中々言い出す機会がなかったんだが、…お前の弓はアルフォンスのだろ?」
「ああ、そうですよ。雪原戦の時に渡されたんだ。」
そうか、そう言うとルアーノは傍に立つ木に寄りかかり腰を下ろし、前に足をなげだして組んだ。
ハームは彼の墓の前で小さくなったまま墓の奥一点を見つめている。
未だ白黒に色褪せる事のない思い出を。
レクサスも彼の墓を眺めた。
それは建てられて間もなくはあるが、他のどんな墓よりも一段と綺麗に整備されている。
少し前に掛けられたであろう水がだいぶ引いてしまってはいるが、
乾く事のない僅かな水滴が日を浴びて煌いていた。
そしてレクサスへ視線を移したルアーノが口を開く。
「何か別任務があるようだな?
さっきマルトースさんから、あのシーフは死んだが別の問題が生じている、って話を聞いたぜ。」
「あぁ、うん。」
「…また俺にはお呼びは掛からないんだろうな。
おいアルフォンス、どうやらギルドマスターは蚊帳の外らしいぞ。」
「いやいや、そーゆーことじゃ…」
ハームからも笑みがこぼれた。
レクサスが弁明しようとするが、それに対しルアーノは笑っている。
「いいんだ、もう。俺には俺のやることがあるからな。
まぁ…餞別代りに教えてやるか。
アルフォンスのあの弓、あいつ自身が作ったものなんだけどよ、
それだけやつの思いが込められてるぞ。
あいつが何でいつも笑顔でいたか、その理由がそこにある。
その答えは自分で見つけな。
…まぁでもお前は笑うな、お前が笑うとへらへらしてて腹立たしい。」
ルアーノもハームも声を出して笑っている。
随分笑っていなかったかのような懐かしい笑い声が、2人から発せられた。
「ちょっ、そりゃぁないぜ。」
レクサスをよそに、ルアーノはゆっくりと腰を上げて歩き出した。
もの言いたげな彼を既に見ていない。
しかし彼の隣に来ると、そっと彼の左肩に左手を置き、頑張れよ、とだけ言った。
「ゆっくりしていけ。じゃぁな。」
「あぁ、ありがとう。」
彼は立ち去るルアーノの背中に最後の言葉を掛けた。
色々な意味の、ありがとう、を。