The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-32
「わかった。アランとレクサスに関しては特殊任務に就くという形で皆に伝えておく。
後で皆を率いて訓練のため城を発つから、その間に集会部屋の荷物をまとめておけ。」
「色々とありがとうございます。」
ヴァルキリーがアランへ歩み寄った。
そして手を彼へ差し伸べた。
戸惑う彼を、ほらっ、と言って促す。
手は握られた。
力強く、固く…。
自分でそうしたことなのだが、目に熱いものが込み上げてきてしまったヴァルキリーは振り返り、
集会部屋へと戻っていく。
ただアランから数歩離れたところで立ち止まった。
「帰ってきたら、また俺の片腕にしてやる。覚悟しておけ。」
静かな廊下に、アランが腰を曲げたことで、鎧の金属音が鳴り響いた。
その重厚な金属音が、ヴァルキリーに涙をもたらした。
生きろよ
零れ落ちた涙の雫が日を浴びて煌いていた。
色褪せる事のない思い出を表すかのような、美しさを奏でている涙。
日差しだけが、いつまでも、いつまでも廊下をあたたかく照らし続けていた。
再び歩くヴァルキリーの背中を目に焼き付けたアランは、彼とは別の方向へと歩を進める。
アランが見る、最後のヴァルキリーの背中だった。
いつも頼りにしたその背中を。
リーフはシュリと共に城内の大広間にいた。
ネリアのような重傷者以外ほとんどの者が今はもう回復し、これまでの生活へと戻っている。
大広間も徐々に普段の静けさを取り戻してきた。
後片付けの音だけが静かに響き渡っている。
そこにリーフの声が加わった。
「シュリさん、話さなければいけないことがあるんです。」
「ん? どしたの?」
二人並んで片付けの手を休めることなく言葉を交わす。
「昨晩のシーフ討伐の際、アランのお兄さんと名乗る人が例のシーフを倒してくれたんです。
その人はあのシーフと同じく、この世界とは別のところから来た人でした。
そして言うんです、自分達の世界で大変な事が起ころうとしてるから、それに手を貸せって。」
話しているリーフの手は休んではいなかった。
ただシュリの手は当然のごとく、驚きを表して止まっている。
「え? んっと…、ちょっと話がよくわからないけど…、リーフが嘘言ってるわけじゃないだろうし。
ん? それじゃぁアランは元々この世界の人じゃなかったってことかしら?」
「たぶん…。」
「そう…。
でもリーフはアランのことがそれでも好きなんでしょ?」
それに黙って頷くリーフ。
それを見たシュリの手は再び動き出した。
「なら、アランが行くって言うのならあなたも行けばいいじゃない。
彼をいつまでも助けてあげなさいよ。
そして、いつまでも彼を好きでいなさい。
それでいいでしょ、他のことなんて気にしなくても。
人を好きになるって、そんなことだと思うわ。」
「はい…、でも」
言葉の最後の方は聞き取れない声へと変わっていった。
リーフの手は止まり動く事はできなかった。
「…向こうの世界へ行ったら、…こっちに帰ってこれるかわからないって。」
「そっか…。
でも…ね、アルフォンスはもうこの世界にはいないの。
それはすごく悲しいわよ、やっぱり。
でも、それでも私は今でも彼のことが好きだし、生きていけるわよ。
彼を想う気持ちと、彼との思い出があるから。
だからリーフもさ、気にしなくても大丈夫よ。
生きていれば、またいつか会えるんじゃない?
…行っておいで。
でも約束してね?」
手を休めリーフに歩み寄り、彼女を抱き締めた。
「プリーストとして、アランを守ること。
そして、女として、彼を愛し護ること。」
愛する人を失ったシュリの優しさが、リーフの心に染み渡る。
最後に、遠慮することなくリーフは彼女の胸の中で泣いた。
泣く彼女の後ろ髪をいつまでもシュリは包み込むように撫でた。
気持ちの繋がれたリーフとアランを羨ましいと思ってしまうこともある。
けれどもそれ以上に、この2人にはもう自分達のような悲しい最後を迎えて欲しくはなかった。
そう願えば願うほど、儚くもアルフォンスへの想いが強くなる。
彼女の瞳から一筋の涙が堪えきれずに流れていた。
今でも彼を想う、女としての気持ちに逆らう事のできない涙が。