The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-30
「本当のことを告げよう。
…もう何年も前、まだ私もマルトースも戦場に出ていた頃だ。
当時も現在のような3国間で激戦を繰り広げ、戦線が各国深くまで広がってな、
市街地での戦いもあった。
そして悔しい事だが、市街戦の果てに戦災孤児を多くもたらしてしまったのだ。
責任は市街地を守りきれなかった我々にあることは間違いない。
そして民を苦しめてしまった王族としての自分の不甲斐なさに…、今でも…あの時の事は忘れられん。
ゆえにせめてその後の生活だけは絶対に守ろうと決意したのだ。
引き取り手を探し、それが見つからなかった子どもは城で保護した。
王国騎士団の連中は志願兵もいるが、大半はそういった者が多い。
お前の姉ネリアもそんな子どもの1人だ。
ただ彼女は女だったから剣を持つことはできなかった。
すると、城の給仕として奉公する道を選んだよ。」
ネリアの料理は美味いだろう? そう聞かれたアランだったが、
それに答えるには頷くだけで精一杯だった。
デュオの時と同じく、言葉が…どうしても出ない。
そんなアランを見て、再びレクトはゆっくりと話を進めた。
「…そして今から13年前、バイサス遠征からの帰途、大草原でお前を見つけた。
何も無い大草原でお前は1人佇んでいたよ。
どこの国の者かもわからなかったが、あのような場所でお前を見過ごす事は出来なかった。
いつ死んでもおかしくはなかったからな。
そしていくつか質問をするとお前は、名と年齢以外答えなかった。
年は指で教えてくれた。
当時4歳の子どもであり、
戦争という精神的な衝撃で一時的な錯乱を起こしているのかと、その時は思った。
ただ今でも鮮明に覚えてるが、お前の瞳の奥に宿している何かを感じた…。
そして一旦城へ連れて行くことにしたよ。
ただお前は一向に言葉を発しようとはしなかった。
それゆえに、お前の引き取り手が見つからなくてな。
それでも私はお前の手を引いて、何度も街へ連れ出していた。
そんなことがしばらく続いた。
ネリアが10歳になった頃、お前自身もたどたどしくはあるが話し始め、
城の者と会話をするようになった。
そして再びお前の引き取り手を探そうという時、ネリアが言った。
城へこれ以上迷惑を掛ける事は出来ない事、自立するために錬金の仕事を勉強している事。
そしてアランの引き取り手がいないのであれば、彼女自身が引き取るという事を。」
いつしか小鳥達が木々に舞い降りていた。
彼等もまた、親鳥が子鳥に何かを伝えている。
「私達は子どもの自主性を尊重した。
剣を持ち王国騎士団に入隊し修練する者、職に就き己の人生を確立する者。
戦時下であったからこそ、皆他人を気に掛ける余裕はなかった。
だから頼れるものは自分自身のみだという事を、彼等は肌で感じていたのだろう。
戦災孤児として、一入にな…。
だから当然ネリアの申し出を拒むものはなく、私は承諾した。
ただネリアも10歳、まだお前は5歳だったので、金銭的な援助を陰ながらさせてもらった。
最初ネリアはそれを拒否したが、せめてそのくらいはさせてほしかった。
ネリア自身、それに頼ることなく生きていける女性だともわかってはいたがな。
…あとはお前の知るところだ。」
アランはただただ庭園を見つめている。
ただ本人の自覚のない涙が、うっすらと瞳を潤している。
「…先程お前の兄と名乗るデュオが、聞き取れない言語を使っていたと言ったな。
それで確証を持った。
あの時お前は話すことができなかったというよりも、この世界の言語を知らなかった。
だからしばらくの間言葉を発せられなかったのだと。」
レクトは溜息をひとつついた。
今までの心の蟠りを吐き捨てた。
「アラン、お前がストリームブリンガーの副団長になるまで、
私はあの時の少年がお前だと認識することはできなかったよ。
ネリアとは何度か直接顔を合わすことがあり、お前の成長などは耳にしていたがな。
お前がなぜ剣を取ったのかは聞かなかったが、それは…見当がつく。
…よく立派に育った。
そして、今までよく働いてくれた、…礼を言う。」
アランの肩にレクトは優しく手を置いた。
手を置く彼は微笑んでいたが、それは一瞬消えた。
アランは視線を前に向けたまま一筋の涙を流していた。
それが自分の過去を知っての悲しさによるものではないだろう、レクトは思った。
彼もまた、あたたかい気持ちになった…。
ネリアとも話したいだろう、少し待て、そう言いながらレクトはその場を後にし目を隠した。
自分の存在、出生、そんなことはもう関係なかった。
今まで支えてくれたレクト、そしてネリアのことだけで、十分だった。
彼等のことを思うとアランの目からは涙が溢れた。
気遣いながら自分を成長させてくれた存在。
それがとてもあたたかいものだと知った。