The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-29
翌日、シューナとアンジェリーナは父親である国王へ昨晩の出来事を詳細に報告した。
彼もまた訝しげにそれを聞いていたが、彼女達の真剣な面持ちとこの世界が平衡されたことにより、
現実を受け入れた。
ジャイファンとバイサスに甚大な被害を与えたシーフが既にこの世界には存在しない、
それだけで、受け入れるには十分だった。
それ以上の何かが表裏一体で隠されていても不思議な事ではない、そう判断した。
シューナの言ったとおり、現在3国での軍事力はイルスが抜きん出たことにより、
彼は停戦協定を他国へと申し込む手筈を整える。
それ以上の何かがあるのであれば、既に3国がいがみ合っている時ではない。
国というものが時の流れを受けて大きく変化しようとしていた。
結局何か変化する要素がなければ、時代が変わろうとはしない。
どれだけ戦いを繰り返そうと、無益な殺生によってもたらされた憎悪が生まれ、
また新たな戦いが生じるだけである。
有史以来人はそうやってきた。
だから時代を変えるというのは困難極まる。
しかし何もしなければ何も掴み取れない。
戦場であれば、戦おうとしなければ生きようとしなければ死が待つのみ。
だから、戦った。
そうでなければ、大切な人すら護る事が出来なかったから。
先にあるものをたとえ掴めなくても、なぜそうするのか。
きっと人だから、人の心がそうさせるのだろう。
だから…幸せな未来を護りたかったから、それを必死に手繰り寄せようとした。
ただシューナとアンジェリーナには、兄の行いの意味が今はまだ納得できないかもしれない。
兄の行動によってもたらされた結果は、残された彼女たちが一番理解している。
そこには血の繋がった人を亡くした悲しさしかないという事を。
儚いけれども、人は時の流れの中で経験を重ねていくことで、徐々に理解を増やす。
彼はそっと窓の奥の景色を眺めていた。
瞳に映る光景は穏やかな活き活きとした自然の風貌ではなく、
大切なものを護るために死んだ息子の姿があった。
穏やかな微笑で、窓の奥を見つめていた。
アランは再び城へと赴いた。
ただし今回はレクト王へ正式に報告する名目で謁見している。
その場にはレクト、マルトース、アランの3人のみがいた。
他の王国騎士団の従者などは席を外させている。
それによってアランは事の次第を正確に報告する事にした。
シーフの脅威はもうないこと、自分達の世界とは別の世界があること。
もう1つの世界を確証付けるために、デュオ自身と自分の関係を悩んだ挙句伝えた。
アラン自身がまだ全てを受け入れることができたわけではなかった。
彼が一部始終を伝え終わると、ようやくレクトは閉じていた目をゆっくりと開き始めた。
そして僅かな時間ではあるがレクトはアランを見つめた後、玉座を立った。
「アラン、少しいいか?」
開口一番に出た言葉にアランは驚く。
肩膝をつき腰を沈めているアランの横をレクトが通り過ぎていく。
この信憑性の無い話をレクト王は信じなかったのかと不安に思い、
アランはその場を動けずにいた。
それを振り返り確認するレクトは苦笑いし、玉座の横に立つマルトースに視線を送った。
マルトースは一度頷きをレクトへ返し、アラン、行くんだ、とだけ言い促した。
玉座の間を後にしたレクトとアランは、城内の庭園が一望できる露台へ来ていた。
ヴァルキリーと来た時と同じようにあたたかな日差しを受けている庭園を、
2人はじっと見つめている。
ただそこに会話はなかった。
小鳥のさえずりすらなく時だけが静かに刻まれていく。
この重い沈黙に耐えかねたのはアランだった。
「…やはり信用しては頂けませんか?」
「…いや、そうではない。」
僅かな間の後でレクトも口を開く。
彼はずっと悩んでいた。
「信用…と言って良いものなのだろうか。…まぁきっとそうなのであろう。」
レクトが何を言っているのかアランには皆目見当がつかなかった。
そしてじっと庭園を見つめるレクトの瞳の奥にあるものを、窺い知ることはできなかった。
「アラン、昨日の今日で済まないが、聞いてほしい。
ただ、私は今全てを話さなければならない。
その義務が私にはあり、お前には聞く権利がある。
…いいか?」
彼の隣で躊躇った末に、はい、と決断したアランを横目で見やると、
レクトは再び眼前の緑へと視線を戻した。
ただレクトの口調がいつもと異なり、柔らかいものであることにはアランは気がつかなかった。
「……アラン、お前とネリアは血の繋がった姉弟ではない。
恐らく、報告に挙がったデュオという男がお前の本当の兄弟だ。
お前の報告を聞いて、ようやく合点がいった。
最初は流石に信じられるものではなかったが、事実関係を考慮すると信じざるを得ない。」
アランの庭園を見渡す目は一瞬大きく見開いたが、再び普段の大きさに納まっていた。
話を聞き流しているかのような眼差しで。
それでも、実際はそうではない。
アラン自身が一番自分の過去について知りたいと願っているから。