The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-23
大草原の東にイルスはある。
そして大草原に接するイルス領グレートジャングルにシューナとアンジェリーナ達は布陣している。
鶴翼の陣形を執っており、それはやや弧を成している。
前面に戦士達が、その後方にアーチャーやシーフ、ウィザードといった、
遠距離攻撃ができる者を配備している。
雪原戦、国家戦での被害は3国で最少であることを、この大層な布陣から読み取れる。
そして月を背後に4つの黒い影が迫り来る。
戦士達は剣を抜き盾を前面に押し出し身構え、後ろのウィザード達は各々詠唱を始める。
アーチャーは弓を引き、シーフはナイフをいつでも投げれるよう振りかぶる。
彼等の動作が一斉に行われたため、実に壮観な光景だった。
「待ってくれ! 俺達はジャイファンの者だ、支援に来た!」
(これまでの話だと敵はシーフ1人のはず…。信用してみようか。)
シューナは結界を越え、影のある大草原へと近づいていく。
すると見慣れた人物を彼女の目は捉えていた。
彼女はレクサスを決して弱い存在とは評価していない。
雪原戦での彼の戦う姿を見てそう思っていた。
しかし好きになれない人物であることに違いはない。
「なんだ、あんた達か。」
「お前とはよく会うな。」
レクサスが頭を掻き苦笑いをする。
そしてアランがレクサスの前に出た。
リーフの左肩を借りながら。
「お兄さん、そんな体で何しにきたの?」
「バイサスが襲われた事は貴国からの使者の報で聞いている。
どのみち奴を倒さなければ、遅かれ早かれ皆生き延びる事はできない。
だから来た。」
アランはシューナのまだあどけなさの残るくりっとした瞳を見つめる。
そして彼女は恐ろしいまでの確固たる意思を漲らせる彼の瞳を見た。
気圧されたわけではない。
ただ彼女は彼の瞳からすぐに目を逸らした。
彼女の亡き兄と同じような目をする彼を見ていられなかった。
シューナはアラン達に背を向ける。
「わかったわ。でも無駄死にするくらいならわたしがお兄さん殺すからね。」
ただその言葉の意味とは裏腹に、シューナからどこか郷愁と哀愁が感じられた。
そしてアランも彼女に背を向け、大草原の奥を見つめる。
「ああ、でもそれは実現することはない。
俺達は死にに来たわけじゃないからな。」
お兄さん、強いんだね…、シューナはアランに聞こえないようそっと呟いた。
僅かばかりにうっすらと瞳を濡らす彼女はそれでも気丈に振舞う。
アランから逃げ出したいわけではなく、アランが彼女の背を優しく押してくれていたようだった。
今は亡き彼女の兄のように優しく温かく。
強大な敵と対峙する不安が先程まではあった。
けれども今の彼女の足取りはとても軽い。
隊の前に戻るシューナは言い放った。
「みんな! ここじゃなく、大草原で迎え撃とうよ。」
…あの人達の強さは信頼できる、そう呟く彼女の声はとても力強かった。
シューナは大草原へと陣を崩さぬまま進軍させた。
レクサスは少しだけアランの言葉が痛かった。
彼は瞳を閉じていた。
そこへアンジェリーナがアラン達の下へやってくる小さな足音が聞こえる。
それをレクサスは気がつき後ろを振り返る。
「お前はあいつの妹の…」
「はい、アンジェリーナと申します。先程は姉が申し訳御座いませんでした。」
リーフはアランの肩をレクサスに渡し、アンジェリーナの下へ寄る。
アランとレクサスはじっと月が照らす大草原を見つめ始めた。
「ううん。あなたが謝るような事をお姉さんはしていないよ。」
リーフが膝を屈め、アンジェリーナと同じ目線にした。
「お姉さん想いのいい子だね。」
リーフが優しくアンジェリーナの頭を撫でる。
彼女の言動はいつしかシュリに似てきた。
レクサスがアンジェリーナに背を向けたまま言う。
「そーゆーこと。俺はかわいい子には優しいから安心しな。」
アランとレクサスの右後方にいたリトがすかさず反応し、彼等の前に踊り出た。
いつものように笑顔で呪文詠唱の真似をしている。
「ちょっ、待った待ったっ! 怪我人を巻き込む気か!?」
それを見ていたアンジェリーナは上品に笑った。
リーフも可憐ではなく美しい笑顔を見せる。
そんなリトはアンジェリーナに近づくと、そっと彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫。お姉さん達が守ってあげるから。」
リーフはアランの下へ再び戻り、レクサスからアランの肩を預かった。
「御協力感謝致します。」
アンジェリーナは深く腰を曲げて姉の下へ戻った。
しかし彼女は気がつくことはなかった。
アランとリーフの目が語る意思とレクサスとリトの目が語る意思には、微妙な違いがあることに。