The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-19
太陽が南中し照りつける。
街からは復興作業の音がレナスに響き渡る。
ネリアはゆっくりと目を開けた。
視界にリーフの姿が入り彼女の穏やかな声が聞こえてくる。
「ネリアさん、気がつきました?」
リーフの声に反応したアランは痛む体を押して起き上がり、ネリアの傍に寄った。
「アラン…、リーフ…。」
体を襲う痛みと生じた熱によって、ネリアの声はひどく弱弱しい。
ただ彼女はレナスを襲い自分に瀕死の重傷を負わせたシーフの正体や、
今寝ている場所がどこだろうと気にも留めなかった。
そして心から安堵したような満面の麗しい微笑みを見せた。
「良かった…、無事で…。」
「大丈夫、姉さんも。
今はゆっくり休んでくれよ。」
ネリアは再び目を閉じた。
リーフはしばらくの間ネリアの手を握り姉の容態を見守っているアランをそっと彼の寝床に戻す。
「わるいな」
「んーん、いいよ。
ネリアさん今熱出してるけど、引けばだいぶ体も楽になると思う。」
「そうか」
アランはもう一度ネリアの方へ視線を移した時、視界にレクサスとリトの姿が入った。
リーフはリトとなにやら話し込むようで、リトの方へ向かった。
そしてレクサスが寝ているアランの左に腰を下ろす。
レクサスにいつもの明るい笑顔はない。
「平気か?」
「ああ、なんとかな。それよりあのシーフはどうなった?」
レクサスは思い悩んだ挙句、体の痛みが窺えるアランを見て伝える決心がついた。
アランには結果を知る権利があり、レクサスはそれを伝える義務があった。
「すまない、奴を倒せなかった…。」
「そうか…。範囲魔法で攻撃したんだろ?」
「ああ、それでも奴は両足で立ってた。
その後運良く引いてくれたおかげで俺達はなんとか生き残った。
けど多くの仲間が死んだ…。」
レクサスの悲痛な表情を見てアランは言った。
「奴は強い。けど、俺達はまだ生きてる。生きてる限り奴を倒す機会はきっとある。」
「ああ、わかってる。お前は早く体治せ。外の守りは任せろよ。」
レクサスはすくっと立ち上がった。
彼の後ろ姿を見てアランは声を掛ける。
「レクサス」
「なんだ?」
「あんまり無理だけはするなよ。俺はお前達を信頼してるからさ。」
「大丈夫だって、心配すんな。」
今まではわかっていたつもりであったことだが、
雪原戦の後でようやく気がついたことを直接レクサスに伝えた。
ただアランにはわからなかった。
笑顔でそう言ったレクサスの背中が語る、彼の強固な意志を。
アランとレクサスが話している姿を尻目に、リーフはリトに告げた。
「アイサさんの気持ち、わかっちゃったんだ…。」
「そっか。」
俯いているリーフの目に涙はなかった。
「じゃぁ、今度皆で、バランタンにでも行こっか。」
「そうだね、いつか行きたいな。」
「あそこってさ、綺麗な宝石が結構あるのよっ。」
リトが意地悪そうに言う。
そしてリーフは頬を赤く染める。
そんなところは彼女らしさが残る。
「冗談冗談。」
笑うリトの下にレクサスがやってくる。
「さて、行くか。」
「うん。じゃぁリーフ、頑張ってね。」
「リーフ、あいつ頼むな。」
去って行った二人の遠い背中をリーフは黙って見つめた。
太陽が西へ落ちていく。
レクサスとリトは墓地に来ていた。
彼女はアイサの墓の前で目を瞑っている。
彼はそんな彼女をそっと見守る。
アルフォンス、ピノ、アイサの墓の前にそれぞれ2本のブローディアが手向けられている。
「お待たせ。行こう。」
彼女の目は見開かれた。
「もういいのか?」
「うん」
「じゃぁ、この余った1本はお前にやるよ。」
「ふん、言うようになったじゃないの。
けどその言葉、そっくりお返しいたします。」
「素直じゃねぇなぁ」
レクサスは彼女の右手を取り、ブローディアの花を渡す。
そしてそのまま彼女を抱きしめた。
力強く、愛を込めて。
彼女も受け入れ、レクサスの背中に腕を回した。
彼等はピノ、アルフォンス、アイサの死を既に過去のものとして受け入れ、
アランとリーフの未来のために走り続ける意思がある。
レクサスはアランを、リトはリーフをずっと気遣ってきた。
それほどに大切な存在。
それだけの時を4人は共に歩んできたから。
レクサスには『あの時』の想いが、リトには親友への想いがあった。
そしてその想いを崩れることなく支えているのは、
紛れもなくレクサスとリト、彼等2人の愛だった。
木々に止まっていた小鳥達は羽ばたいていった。
もう誰も彼等の意思を止める事はできない。
今はまだそれがアランとリーフに届かなくても、何も構わないだろう。
きっといつかわかってくれる、そう信じている。
4人で共に過ごす時が、儚く砕け散ろうとも。
レクサスの青い髪とリトの黄色い髪が落ちゆく太陽の日差しを受け、寂しいほどに鮮やかだった。
だから―――人としての清らかな美しさがそこにはあった。
己の信念のために今を生きる姿が。