The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-18
彼を下手に刺激しないよう、笑顔を崩さずに言葉を選んで話を続ける。
「大丈夫、お姉さんも。
怪我したけど、リーフのおかげで、大丈夫だから。」
「姉さんはどこに?」
そう聞かれるとシュリは一瞬困った。
だが、今の彼には直接ネリアの顔を見せたほうが落ち着くだろうと思い、立ち上がった。
寝ているリーフの肩を揺すり、彼女を起こし始める。
それを訳のわからない顔をしながら黙って見ているアランだったが、
リーフが起き上がるとようやく理解し、安堵した。
ネリアはリーフの右側で今は静かに眠っている。
そして起き上がったリーフも、ようやく目覚めたアランを見て胸を撫で下ろす。
「安心したかな?」
シュリは微笑んでアランに言った。
「はい…、取り乱してすみません。」
「お姉さんのお礼はこの子に言う事ね。
全魔力を解放して救ったんだから。
…じゃぁリーフ、アランのことよろしくね。
わたしは他の人の様子を見て回るから。」
シュリは2回ぽんぽんとリーフの頭に手を置いてから立ち去っていった。
リーフは一度アランに背を向け、ネリアの様子を確認する。
ネリアの規則正しい呼吸を聞いてから、再びアランへ向き直る。
するとアランはリーフの頬にそっと右手を伸ばし始めた。
痛みで彼の手は少し震えている。
リーフは顔を近づけ、彼の手を取り、自分の頬へ当てた。
「リーフ、ありがとな。」
「うん、いいよ…。
ネリアさんは絶対助けるって思ったから。」
リーフの想いにアランは心打たれた。
その強い意志に込められたアランへ対する想いを知った彼は、
最早迷いはなくなった。
アランの手がそっと彼女の頬から離れる。
そして彼女の頭へ回そうとしている。
リーフは彼の意図がわからなかったが、とりあえず自分の顔をより近づけた。
アランの彼女の頭に回された手が、優しく彼の方へ彼女の顔を寄らせようとしている。
彼の意図を理解してリーフは恥ずかしくなったが、無理をさせれば彼が辛いだろうと思い、
自分の体を彼の横に寝かせ、顔を彼の右脇へと埋める。
彼の右手は肘を立てリーフの髪を優しく撫でていた。
「ねぇアラン」
「ん?」
「今日ね…アイサさんが最期にね、言ったんだ…」
「うん…」
「アランと…幸せになってね…って」
「…そうか」
アランは目を閉じた。
アランの彼女の髪を撫でる手が止まる。
そして彼の腕はゆっくりと彼女の体に回された。
リーフは嬉しさと悲しさによって一筋の涙をこぼした。
「ねぇ…アラン」
「うん」
「…幸せに、…してよ?」
「…ああ」
彼女の体に回された腕からは怪我を微塵も感じさせない力が込められている。
リーフも彼と同じようにそっと右手を彼の体に回した。
アランの顔は苦しんでいた。
怪我によるものではなく、アイサの想いによって。
リーフは再び彼の横で眠りだした。
瀕死のネリアを救った彼女だったが全魔力を解放し、
魔力が尽きたら傷の手当てをしつつ魔力回復を行うという動作を繰り返したため、
全身全霊の力を消費した分の疲労は想像に難くなかった。
ただ、彼女をそこまでさせたのは、アイサの死の決断と少なからず同じだった。
そしてリーフもまた、アランの悲しむ姿を見たくはなかった。
アランは静かに眠っているネリアを見た。
そして彼は再びリーフの頭にそっと手を置いてあげた。
多くの犠牲を経てこの二人は繋がれた。
その代償はあまりにもこの二人には辛く、悲しいものだった。
だからこそ、アランは―――――
ぼんやりとした明るさが包む。
アランは窓の奥の暁の空を眺めた。
アイサ、ピノ…、ありがとう。そして、忘れはしない、決して。
ピノの死もアイサの死も変わる事はない。
それと同様に、3人で過ごした過去も変わる事はない。
アイサのアランへの気持ちが潰えても、ピノのアランへの気持ちがこの世には既に無くても、
彼女達が存在した事は永久に不変である。
形に遺す物が無くても、記憶を繋ぎ止め続ける過去が存在すれば、人はそれを忘れる事は無い。
そして過去を糧に今を生き、未来へと歩むことができる。
アランの左に置かれている銀色の鞘は朝日を映し出し、眩しく輝いた。