The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-15
不運にもそこで保護魔法の効果が切れ、激しく打ちつけられた全身は動く事はなかった。
しかしシーフがアランに攻撃を仕掛けたことで、僅かな隙は生まれた。
そこへウィザードの範囲魔法がシーフを呑み込む。
あたり一面に雷鳴が鳴り響き、民家や木々もろとも紅蓮の火柱が周囲を包み込む。
そして屋根上のレクサスたちが怒涛のごとくナイフや矢を爆心地へと打ち込んだ。
「止めろ!」
一旦攻撃の手を制するレクサス。
やった…か? そう呟きながら土埃と火柱の中から敵の姿を探す。
そして土埃が引き炎が弱まった時、レクサスは見た。
額から血を流してはいるが、両足で立っているシーフを。
炎の中で不気味な笑みを浮かべながら。
(なんなんだこいつは…。)
レクサスは恐怖に呑み込まれそうになる。
これ以上このシーフを見たくないがために、彼は弓の弦を引いた。
しかしシーフは身を翻しレナス外部方面へ疾走していった。
この恐怖から解放されたレクサスは、堪らず安堵しその場にへたり込んだ。
広場の方から熱風がヴァルキリーに襲い掛かっていた。
左手で手綱を持ち右手で剣を取って馬を進める。
すると広場手前であのシーフがヴァルキリーへ向けて疾走してくる。
(アイサ…、済まない。)
膝を伸ばし前傾姿勢を執り、右腕を伸ばし剣を右下へ下ろして馬を駆け出させる。
そしてシーフを右手前に捉えたところで、一気に剣を振り上げた。
気概、そして想い、瞳に宿す全てをぶつけた。
しかし陽光を浴び縦一閃とするそれをシーフは軽々と左へ跳んでかわし、
何事もなかったかのようにレナス外部へと走り続けていった。
どう考えても騎乗した剣の射程範囲では、剣戟が届かないことをヴァルキリーはわかってはいたが、
それでも体は彼をそうさせた。
ヴァルキリーの保護魔法は既に効果を保ってはいなかった。
命を賭してでもレナスを守ろうとする戦士の姿だった。
アイサの死を無下にしないために、先程レナス外部で失った命のために。
だが深追いすることは諦めるしかなかった。
あのシーフの機動力は凄まじく速く、既に彼の視界から消え去ろうとしている。
自身の決死の覚悟でさえも、あのシーフの前では意味を成さないものだった。
剣を鞘に戻し馬から降りると、拳を地に叩きつけた。
「くそがぁ…っ!」
普段はこのような言葉を絶対口にしないのだが、どれほどの感情か容易に想像できる。
ただし寝転がる住民は誰一人としてそれを聞いてはいない。
視線がそんな聴衆を捉えると、国王の息子としての血が彼に使命感と冷静さを与えた。
それらはひとまず熱風が襲う広場へと彼を急がせた。
到着してヴァルキリーの目に映ったのは広場がほぼ全域に渡って炎で包まれ、
その炎が民家を焼いている戦の跡だった。
一人の女性市民の死体と地に伏しているストリームブリンガーのウィザード。
周囲を見渡せば、木々は薙ぎ倒され、民家の壁にひびが生じていたり、穴がぽっかりと開いている。
そして城門へ続く道の方では、うな垂れ震えている者達がいた。
「おい、お前達!
事態はわかった、今はまず負傷者の救助と消火に専念しろ!」
ヴァルキリーはこの光景を見て、実際の戦いはどれだけ熾烈なものだったか容易に想像できた。
しかしその場にアランがいないことを彼は気付いた。
「市中警備隊を率いたアランはどうした!?」
そのヴァルキリーの問いで、レクサス含め皆正気を取り戻した。
咄嗟にレクサスはアランが吹き飛ばされた民家へと駆け出す。
ヴァルキリーもレクサスの後を追った。
そこにはアランの剣と盾があった。
そして家具が破壊されて物や木などが散乱する奥へ入っていくと、右に首を垂れ、
仰向けに寝ているアランがいる。
「アランっ!!」
アランの右傍には原型を留めない兜が落ちており、アランの頭から血が流れていた。
レクサスが駆け寄り呼吸を確認する。
確かな呼吸があり気絶していると判断し、レクサスがヴァルキリーに首を縦に振る。
そしてレクサスが他の外傷を調べている。
「これだけの状況だ、骨が折れている可能性がある。
下手に動かさないほうがいいだろう、プリーストを呼んで来る。」
そう言ってヴァルキリーはその場を去った。