The end of the DragonRaja, Chapter 2[The start in new life]-11
「ノヴァ様、敵は一人ですが異常なまでの強さです!」
「わかっている! 早く軍を撤退させな!」
断末魔の音色が複数なので、どれだけの破壊力を相手が持っているか彼女には理解できた。
ただどうしても相手を確認しなければ気が済まなかった。
彼女は周囲の背景に溶け込み身を隠す技ハイドを発動し、城壁へ上る。
そして奏でられる声の方へ徐々に近づいて行く。
城壁の合間から覗いた時に、彼女の目に映ったのは同じシーフだった。
同じシーフゆえに瞬時に相手が自分よりも格上だと判断した。
彼女は強い、だからこそその場から瞬時に引く動作へ移った。
弱者であれば、このシーフの強さの前に己を恐怖に呑み込まれ思考も体も停止する。
彼女は全神経を集中させ逃げた。
平原要塞を出て海上要塞へ向かっている時、彼女は一度考えた。
しかし海上要塞から満身創痍の一人の味方が歩いてくるのを見つける。
その戦士は右腕が?げていた。
「おい、海上で何があった!?」
「か、壊滅…しました…。」
「誰にやられた?」
「ひと…りの、…シーフ」
言い終わる男の体はその場に倒壊し息絶えた。
ただ、ノヴァには先程考えたことの答えがはっきりと出た。
この世界であのシーフに勝てる者はいないと。
ウェスタングレード入り口ではルアーノ隊が少し遅れてアラン隊とヴァルキリー隊に合流した。
「伝令、事の仔細を至急国王の元へ報告に上がれ。
隊最後部には俺が付く、皆気を抜くなよ。では、帰還する。」
ここに留まっていてはバイサス軍の残党との戦闘や、
あのシーフとの戦闘が回避できないと思われたので迅速な帰還が必要だった。
すると、先ほどの姉妹の妹がヴァルキリーに声を掛けてきた。
「それではわたくし共もイルスへ帰還致します。」
「あぁ、了解した。此度の支援感謝する。」
ゆっくりと一礼して姉の元へ戻ろうとしていた彼女を、すぐさま彼は引きとめた。
「済まないが、君たちの名前を教えてもらえるか?」
「わたくしはアンジェリーナ、姉がシューナと申します。」
「そうか。先程の事ありがとう、と姉さんに伝えてくれないか?」
「了解致しました、では。」
彼女は上品な笑顔を彼に見せ深々と一礼すると、その場から去っていった。
ジャイファン軍は行軍を開始した。
最後部で後方の様子を確認をしながら進むヴァルキリーはふと思い出していた。
ジャイファンとイルスは開戦前から然程敵対関係というわけではなかった。
お互いが無干渉という程度だった。
そしてイルス国王には息子と二人の姉妹がいた。
ただその息子はイルスの指揮官を務めており、
此度の開戦の折に戦死したということを聞いたことがあった。
国王の息子という境遇が同じヴァルキリーにしてみれば、どこか親近感が湧いていたのかもしれない。
先程ヴァルキリーを激昂から救い出してくれたシューナの瞳は確かに濡れていた。
そして彼女のその後の台詞と、アンジェリーナの幼くはあるがどこか気品を漂わせる風貌と口調。
あくまで彼の憶測に過ぎないが、
彼女達がその戦死した兄の妹であるかもしれないという仮説が出た。
(全く、俺は何をやってるんだ…。
あんな少女達に説き伏せられるとは、な…。)
温かな日差しがウェスタングレードを包み込んでいる。
それをヴァルキリーは去り際に眺めた。
生命の息吹を感じさせるほどの陽光とは対称にこの地で多くの命が潰えた。
それを彼に思い出させてしまった、アイサを失った事を。
彼の拳は固く握られていた。