The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-9
ストームブリンガーの部屋を出て、アランとレクサスは長い廊下を城門へ向けて歩いていた。
晴れた日には窓から夕日が等間隔に廊下へと差し込めている時間だが、今はそれはない。
代わりに雨の小さな粒が窓に当って弾ける音が聞こえている。
「まぁでも、近頃のお前には団長をうまくあしらう術が備わってきたかな。
ククク、それが裏目に出た時が、一番笑えるけどな。」
「よせよ」
彼が未だ笑っているのを横目に見るアランの声は溜息交じりだった。
「自分ではだいぶ副団長として慣れてきたと思うんだけどな。
まぁ団長が言うことを否定できるほどじゃないけどさ。」
「おいおい、慣れることと板につくことじゃぁ全然違うぞ。
確かに昔のお前よりは頼りがいがあるけどさ。
まぁおれのほうが豪胆さ、行動力の点で副団長に相応しいな。」
「レクサスのいう豪胆さ、行動力ってのは、恐れを知らない無鉄砲さって言うんじゃないか?」
アランは彼にとびきりの笑顔を向けた。
それを見た彼がアランの後ろへ回ったかと思うと、彼の右腕はアランの首を締めていた。
「ほー、そうか、何か言い残すことはあるか?」
瞬時に彼の締める力が強くなる。
「優秀な…、部下を持って…、光栄の…、極み…、です…。」
「なんだか皮肉っぽいけど…、まぁ許してやろう。」
開放されたアランの首は、通常より多くの酸素を渇望している。
首をそっと撫でているアランを追い越し、アランの数歩先で彼はぴたっと止まった。
「まぁさ、俺のこともひっくるめて、部下を信頼してくれればいいよ。
お前がすべてを背負い込む必要なんてない。今度はしっかり…。」
彼の表情を見ることはできなかったが、その背中は『あの時』のことをアランに告げていた。
「あぁ、わかってる。」
アランのその言葉だけで十分だ、そう思った彼は、しばしの沈黙の後アランの方に向き直る。
「いやー、しかしシュリさんたちのギルドがレナス外部に配備されてるのか。」
そう言っている彼にアランは再び歩みを揃え、彼らは歩き出した。
「ネリアさんはかわいいけど、シュリさんは美人だからなぁ〜、
それでいて、プリーストとしての癒しとはまた別の癒しがあるからな。
あ、別にネリアさんがどーこーって話じゃーない、ただ俺は美人な人が好きだな。」
「わかってるよ。けどリトだって美人じゃないか、レクサスは飽き性なのか?」
幼少の頃、レクサスがアランの家に遊びに来た時、
姉のネリアに『俺が大きくなったらネリアねーちゃんと結婚する』といった彼。
しかし、彼は今では幼馴染のリトと付き合っている。
あの時の言葉が現実にならないでほっと安心しているアラン。
だからアランは彼に彼女ができたことを心底喜んだ。
彼レクサスはそう、決して悪い奴ではない。
だが、率直で無鉄砲すぎるところがあり、かつ人をよくからかう。
レクサス曰く、アランだけだと豪語するが。
そして、アランがからかいやすいのが悪い、と笑って言う。
レクサスはしばしばバランタンの市場へ買い物に行くことがあり、
以前アランも装備を作るのに必要だからと、宝石をいくつか貰ったことがある。
しかし、平気で他国へ行ってしまうような奴に姉を預けることはできないというのが、
アランの弟としての心情だった。
いつ何時、姉が危険な目に遭うかと思うと、アランは心配で気が気でない。
ただ、レクサスの彼女リトは彼と共にバランタンへ行くらしい。
アランは彼女に、
『アランも一度行ってみるといいよ、すごく人がいっぱいで色んなものがあるんだ〜』
と言われたことがある。
しかし、バランタンの興味よりも、この二人は似た者同士だな、
という感想しかアランは思い浮かばなかった。