The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-40
川のせせらぎの音以外に、人が地を蹴る音が聞こえる。
音の方へ視線を移すと、リーフが駆け寄ってきていた。
止まった彼女は、膝に手をついて息を荒げている。
(やめろ…、今は1人にさせてくれ…。)
この苛立たしさをリーフにだけはぶつけたくなかった。
彼は、レナス外部へと歩を進めようとした。
「待って! お願い…、話、聞いて?」
いつになく真剣な面持ちでアランを見つめるリーフの姿に、彼の足は根負けした。
しばらく重苦しい空気があたりを包んだ。
再びぼんやりと川の流れを見ている彼に倣い、彼女もその流れを見つめた。
リーフの荒い呼吸音が徐々に静かになっていく。
お互いの間にある少しの距離が、今のリーフにはとてつもなく離れているように感じられる。
リーフは、彼女が何も言わなければ、彼がここから去ってしまうように、
彼が彼女の手の届かないところへ行ってしまうように思えて、意を決して話し始めた。
「あたしはさ、アランが生きててくれてよかったよ。
あのあと、アラン体中に傷負ってて、ぼろぼろだったんだもん。
すっごい心配したんだよ。」
目の前の川の流れから視線を逸らさずに、彼は呟く。
「でもあの時…、俺は刺し違えてでも奴を殺したかった…。けど殺せなかった…。」
「やめて! そんなこと言わないで!」
リーフの反応が、彼の逆鱗に触れた。
「お前に何がわかる!
死んだピノやアルフォンスさんたちの無念を晴らせなかった俺の…。
あの時隊を統率してた俺の気持ちの…。
何がお前にわかるっ!!」
それを聞いたリーフはアランをひっぱたいた。
彼女の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちている。
「わからないよ、そんなの…。
でもそれで刺し違えて倒せても…、
アランがいなくなったらあたしの気持ちはどうなるの?
そんなのアラン自分のことばかりじゃない…。
もっと周りの人の気持ちもわかってよ!」
重い沈黙がアランとリーフを包んだ。
それは彼らにとても長い時を感じさせただろう。
溢れそうになる涙を必死に堪えながら、リーフが今の彼女にできる精一杯の穏やかな口調で言った。
「人の為に何かをするって、いつかどこかで自分を見失っちゃうよ?
もっと自分のことを考えて、自分を大事にしてよ。
そして今を生きてよ。
それが巡り巡って誰かの為、誰かの力になってるんだよ?」
彼女はついに堪えきれなくなった。
「…ごめん」
その場から彼女は走り去った。
去り際に彼女の瞳からこぼれるいくつもの涙がその場に舞う。
一人取り残されたアランは彼女に叩かれた左頬に右手を当てる。
頬は熱く、そして痛い。
(自分の事…か。)
アランはやっと気がついた。
レクサスが言った『お前がすべてを背負い込む必要なんてない』という事。
ネリアが言った『自分では正しいと思ってても、周りはそうじゃないってこともある』という事。
そして、彼が雪原戦で心行くまで泣いたことで、『あの時』のレクサスの気持ちが今わかった。
戦士としての弱さ、人としての弱さを今、痛感した。
それを泣きながらも気がつかせてくれたリーフ。
アラン自身は彼女に対して怒りをぶつけてしまったのにもかかわらず…。
(最低だな…、俺。)
彼はまたしばらくの間、川の流れを見つめた。
今までの自分を押し流すように。