The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-4
会議室の机は四角く形作られており、
ジャイファンが象徴する赤い蠍の旗が掲げられている壁を背にして、上座にマルトースが座っている。
僅かに開かれた窓の隙間から、先ほどのアランの恥ずかしさによる体の熱を取り除いてくれるような
心地よい風が流れてくる。
窓の奥を見れば、木々の間から彼を応援するかのような美しい音色の小鳥の鳴き声が
ほんのりと彼の耳を包む。
マルトースは全員が席に着いたことを確認して口火を切った。
「では始めよう。」
「畏まりました。アラン、対バイサス現状報告始めろ。」
未だ、アランへの怒りが幾分冷めてはいないヴァルキリーの声を聞いてから、落ち着いたアランは
腹に力を入れて言葉を放つ。
「既にお解かりのように、半年前の開戦から国家戦で山、平原、海の三つの城と雪原を保持し続け、
三国で最強の軍事力と動員数を誇るバイサスではありますが、
現在未だ主だった動きは見受けられません。
レナス外部に配備してある部隊からの報告でも、小規模の戦闘が数日に何回かある程度です。
イルスに放った間者からの報告も同様で、
バイサスは我が国とイルスに牽制程度の攻撃を仕掛けてくる程度ということです。
イルスも積極的な行動は我が国、バイサス双方に行ってはおりません。」
雪原戦、国家戦共に月末に行われるが、雪原戦の翌月に国家戦がある。
それらは毎月ではなく、隔月の間隔で行われている。
イルスは元々中立国家であるが、
雪原戦と国家戦ではジャイファン、バイサスどちらにでも傭兵として参加できる。
しかし、国家戦においては3つの城をジャイファン、バイサスどちらかがが占拠した時、
強制的に占拠した国へは傭兵として参加できない。
中立国ゆえ、強者に加担する事はできないのである。
よって現在国家戦において、イルスはジャイファンの傭兵として参加している。
ただしこれはつまり、3つの城を占拠した国が単独で守備しなくてはならないことだが、
半年もの間、これを保持し続けるということが、
どれだけバイサスの軍事力が強大であるかを意味する。
また特殊な力がこの世界には放たれており、
通常時ではバイサス国にジャイファン人が行くことはできない。
日が暮れ、夜の闇があたり一面を覆い始める時から、月が煌々と照らす間の戦時下でのみ、
他国領内への侵入、侵攻が可能となる。
この侵攻を局地戦と呼ばれている。
一方でイルスへは戦時下はもちろん、通常時でも軍人民間人に関係なく、
自国領内で通行証を発行すれば往来が可能になる。
中立国としての所以だろうか。
しかしこれはジャイファンに限ったことでなく、バイサスも同様である。
逆を言えば、イルスはジャイファン、バイサス両国への往来が可能である。
つまり情報収集能力に関して言えば、イルスが最も秀でている。
「ですが、しばらく3国膠着状態が続いており、兵の士気が問題です。
士気が落ちれば、ギルドの面々にも影響が出て、十分な動員数が見込めなくなり、
そこをバイサスに叩かれては、勝機はありません。」
「それがバイサスの狙いだろうな。」
聞きに徹しているマルトースが呟いた。
「おそらく。
ただし我が国とイルスを同時に攻略すれば、バイサスも甚大な被害を被るのは承知なはず。
ゆえに、現状を鑑みますと、バイサスは勝機を狙いすましていると考えるのが、私の判断です。」
マルトースは、ふむ、と一度静かに相槌を打ち、口を開く。
「そうであれば、中立国であるイルスも我が国と同じように、士気はだいぶ落ちているだろうな。
中立であるがゆえに、自らがこの膠着状態を解こうとはしまい。
積極的に他国を侵略するという考えはイルスの大義に反する。
イルスは我らの動きを窺っているであろうがな。
こちらが動けば、イルスも何らかの行動に移るだろう。
ただし、問題は我らが動いた後だ。」
「我らが動けば、イルスも行動するとは思いますが、どこまで我々に協力するかということですね。
もし仮に、国家戦の3つの城の内、半数以上を我々が掌握すれば、
イルスは我々とは中立の立場により、どっちつかずになる、
もしくは敵対も考慮する必要があるでしょう。」
こう発言したヴァルキリーが唐突にアランに鋭い視線を移す。
その視線は先ほどの怒りなのか、問題の厳しさによるものなのかはわからない。
しかし次の場に相応しい語調を聞いて、
その視線がアランに対しての怒りではなかったことが窺える。