The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-38
レクサスは木に寄りかかり、リトとアイサを見守っていた。
アランがすすり泣いている彼女達の下へ静かに歩み寄った。
「アイサ、リト、ピノが最期に言ったんだ。」
二人は視線をアランへと向けずに聞いている。
「リトの約束、守れなくてごめんって。」
アイサはぱっとリトを見る。
リトは自分が余計な事を言ってしまったと後悔し、むせび泣き出した。
アイサが静かに尋ねる。
「リト…、約束って?」
意を決したリトは正直に伝える。
「姉弟の…、絆、大事にして…、強くなって、おねえちゃん…、守るんだよ、って…。」
アイサはリトをがばっと抱きしめた。
リトの耳元でそっと呟いた。
「ありがとね…。」
リトの瞳から留まる勢いを見せることのない大粒の涙が流れる。
レクサスが泣き続けるリトをそっと立たせ、その場を後にしていった。
「あいつ、俺のこと兄のように慕ってくれてうれしかった…。
強くていいやつだったよ…。」
「…ねぇアラン、…今だけいい?」
静かに俯いていたアイサは、彼の返答を待たずして彼の胸へ飛び付く。
アランは彼女をそっと包み込んだ。
彼の胸の中でアイサは再び泣いた。
何も気にすることなく、ただ全ての感情を今だけは隠さずに彼にぶつけ、思い切り泣き続けた。
レクサスは力なく泣き続けるリトの右手を引っ張り、墓地を出るところまで連れてきた。
そして彼は足を止め振り返り、彼女の右手をぐいっと引いた。
彼女の小さい背中に左手を回し、右手で頭を包み込み、彼女に自分の胸をかじりつかせる。
彼の背に回されたリトの手は、彼の服を握っている。
しかししばらくすると、リトの手は、優しく彼の背を包むようになる。
夕日に照らされた彼らの陰は、一つの大きな長い影となっていたが、
一つの陰から枝分かれする二つの小さな陰を表した。
そしてその少しだけ離れていた小さな二つの陰はゆっくりと重なり、
しばらくの間、離れることはなかった。
「あれ、花が増えてるね。」
シュリが手向けた花の手前に、新たな花が手向けられている。
彼の墓に向かって美しく微笑んだ。
「ふふ、人気者ね。」
彼女は終始微笑んでいる。
今までの彼との日々を思い出しながら。
そして彼の最期を思い出した時、彼女の口が開かれる。
「まったく、最期の最後で言ってくれるなんて……、バカ。」
少しだけ、そう、彼女にとっては少しだけと思いたい切なさが微笑む表情に混ざる。
「ごめん…、また来るね。」
彼女の表情には、既に微笑みはなく切なさしかなかった。
微笑むような穏やかな風が舞い、チューリップが僅かに揺れていた。
墓地の入り口にやってきたレクト王とマルトースの両手には、たくさんの花束があった。
墓地の奥にひっそりと佇んでいる女を見て、彼らは踵を返した。
戦ってはいない彼らが、戦い生き残った者達の涙を見ることは許されなかったから。
レクトとマルトースはかつて二人で共に戦地を駆け抜けた。
彼らもまた、多くの涙を流した。
なぜ涙するのかはわかる。
しかし、彼らの戦いと今の戦っている者の戦いは異なる。
生と死という結果だけは同じなのかもしれないが、
亡くなった者がどのような人であり、どう生きたかということがまったく異なり理解はできない。
そして、生き残った者が『なぜ悲しくて』泣いているか、理解することはできないのだから。
共に生きた者だけが見ることができる涙の意味を、この二人はわかっている。
「上の立場で生きるのは辛いな。」
「そうだな…。」
国王と側近ではなく、共に死線を越えてきた仲間としての口調になっていた。
哀愁を帯びた夕日が別の時代の戦士たちを包み込んだ。