The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-37
雪原戦翌日、雪原戦の犠牲者が埋葬された集団墓地にハームは来ていた。
昨日のシュリのおかげで幾ばくか平静を取り戻した彼女の姿があった。
アルフォンスの墓の前に屈み、墓石に刻まれている彼の名をそっと右の人差し指でなぞる。
彼女は彼の名をなぞり終えたところで、
ふと墓石の下に一輪の紫のチューリップが置かれていることに気がついた。
すると、後ろから足音が近づいて来ている事を感じ、そっと墓石から指を離す。
「悪いな、少し邪魔させてもらってもいいか?」
「どうぞ」
ルアーノに対し振り向かずに、彼女はアルフォンスの墓を屈んだまま見つめる。
「君は確か、こいつのギルドの副ギルドマスターだったかな?」
彼女は立ち上がり彼に体を向ける。
「えぇ、ハームと申します。この度ギルドマスターを引き継ぐことになりました。
改めて以後よろしくお願いします。」
「そうか…、よろしくな。」
彼女はルアーノに墓石の正面の位置を譲り、一歩斜め後ろに後退る。
しばらくの沈黙の後、彼が口を静かに動かし始めた。
「俺は、開戦前からこいつと何度か戦場に出た事があってな。
別に親友ってわけじゃぁないけど、こいつの事はわかってるつもりだ。
まぁ、君らには及ばないけどな。
……同じギルドマスターとして、こいつの墓を見に来ただけだ。
邪魔したな。」
ルアーノは彼女の肩に一度少し力を込めて手を置く。
その視線の先には、木々の間を颯爽と飛んでいく小鳥たちの姿があった。
(……馬鹿が。)
小鳥が見えなくなると、ルアーノは手を離しゆっくりと歩き出した。
「ありがとうございました。」
ハームは彼の方へ深々と一礼する。
彼はつかつかと歩を前に進めながら、そっと右手の甲を彼の顔の横に持っていき、彼女に見せた。
ハームは男の背をただ見つめていた。
そして男の背が見えなくなると、アルフォンスの墓へ振り返り、軽く一礼して彼の墓を後にした。
結局一輪の紫のチューリップを、誰が手向けたのかわからないまま。
チューリップに短い陰ができていた。
ハームが集団墓地を後にしてから、アラン、レクサス、アイサ、リトの4人がアルフォンス
とピノの墓の前へとやってきた。
夕日が彼らの墓に長い影を与えている。
アイサはピノの墓の前に立つと、頬を濡らし始めた。
彼はもういないという現実を未だ受け入れることができないアイサは、
膝の力を失い、地に向かい項垂れ、顔を両手で覆った。
優しく彼女の背中をさするリトの頬も涙で濡れている。
一方アランとレクサスはアルフォンスの墓を静かに見つめている。
アランの瞳には既に熱い涙はない。
レクサスの声が静かな沈黙を破る。
「なぁ」
「なんだ?」
レクサスはアランに背を向けた。
「アルフォンスさんに最期言われたんだ、『あとはその力何に使うか考えろ』って。
俺バカだからよ、『あの時』俺が思ったことくらいしかわかんねぇや。」
アランの言葉を待たずして、レクサスはピノの墓へと向かった。
アランはレクサスの背中をただじっと見つめてから、アルフォンスの墓へ視線を移す。
「そっか……。」
アランの言葉だけが、あたりを包んだ。
アランはアルフォンスの墓に一礼して、悲しみを払拭するように力強くピノの墓へと向かった。
紫のチューリップの手前に、もう一本のダリアが彼の墓に手向けられていた。