The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-36
「シュリさん。」
レクサスの声にシュリは驚いた。
色々な事を考え過ぎていて、レクサスの存在に気がつかなかった。
「あっ、うん、どした?」
「なんか思いっきり驚いたって顔してるよ?」
レクサスが笑う。
雪原戦の時とは違う、いつものレクサスだった。
いつも通りの彼が場を和ませる。
「うるさいなー。で、なによ?」
「あー、いやー、さっきは少しなんか刺々しかったかな〜、なんて思ったりしなかったり…。」
「は? あんたそんなこと言う子だったっけ?」
「何言ってるんですか、おれはいつでも」
「はいはい、わかってるよ、あんたの言いたいこと。でも、そんな態度じゃなかったよ。
気にしないで大丈夫、ありがとね。
でもさ〜、リトにもそういう優しいこと言いなさいよ〜、リトがかわいそう〜。
ねぇ? リト。」
会話を聞いていたリトがうんうんと大きく頷いている。
リーフも背中の振動を感じ、少し微笑んでいる。
「あー、それは別格というか、優しさを越えてるんだよ、だから大丈夫、うん。」
「よく言うわよ〜。」
そのまま彼へ視線を移さずにぼやいたリト。
「じゃぁ俺、隊に戻るよ。おれがいないとあいつら心配だしさ。」
リトが厄介者を追っ払うかのように、左手の甲をレクサスへ向け二回横に振る。
しかし言葉にだけは、できるだけ、心を込めて。
「気をつけていってらっしゃい。」
「ああ、じゃぁな。」
レクサスは夜の闇へと消えていった。
「今日は優しいんだね。」
「今日くらいはね。」
彼女達の会話を黙って聞いていたシュリは屈み、リトの頭にそっと手を置いた。
「ちょっとリーフ頼むね。」
「はーい」
本当はシュリ自身もアルフォンスの想いにふけりたい気持ちはどこかにあった。
しかし今のシュリは己の弱さを受け入れ、そんな願望を既に払拭している。
レクサスとリトの優しくも強い心は彼女に教えてくれた。
そして何より笑顔絶やさぬ彼を思い出した。
(あの時のレクサス、そして今のリトみたいに、言葉じゃなくてもできることが…。
アルフォンス…、ありがと、頑張るね。)
シュリはハームの下へ歩き出した。
ハームは大草原の方を無情の草木のごとくただ見つめながら突っ立っている。
「ハームさん」
そういってシュリは右手で彼女の左手を取った。
いきなり声を掛けられたからではなく、手を握られた事で彼女は少し驚いた表情を見せた。
「横、いいかな?」
シュリはその場に座った。
しばらくして、ハームも彼女に倣い少し離れて腰を落ろす。
ハームは黙って俯いている。
シュリは彼女の横に座り直し、右手で彼女の髪を優しく撫でる。
「今は、我慢しなくていいから、ね?」
俯いているハームの目から、月明かりに反射し、光るものが落ちた。
それを見たシュリはそのまま撫でていた手でゆっくり彼女の顔を自分の胸へ運び、
左手で彼女を優しく包む。
ハームは堪えきれなくなった涙を、ようやくシュリの胸の中で解放させた。
親を待ちわびていた子供のように泣くハームを見て、彼女はようやく胸を撫で下ろすことができた。