The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-34
そんな二人の姿を静かに見つめていたレクサスが近づいた。
「アラン、『あの時』俺が泣いた意味が今のお前にはわかるだろ。
だから今は心行くまで泣けよ。
俺、後ろにいるからよ。」
それだけ告げ、再びレクサスは元いたところへ歩き出す。
彼の言う意味を理解したシュリは彼に倣ってその場を去った。
そっと涙を手で拭いながら、シュリはレクサスに言った。
「ごめんね。
レクサスもアランも強いね。
やっぱ戦う人は違うね。
人の痛みを知ってるんだね…。
私はまだまだ弱いや…、強がってる、だけかも…。」
そんなシュリを見てリーフも瞳から熱い涙を流す。
「あはは、さっきひっぱたいちゃって、ごめん。」
シュリは力強く、それでいていっぱい優しさを込めリーフを抱きしめた。
彼女はシュリの服をきゅっと掴みながら、首を横にふるふると小さく振っている。
彼女だけが、シュリが大切な人を失ったことを知ってるから。
「いいんだよ、無理しなくてさ。泣く時は泣けばいいさ。」
シュリのことを理解していないレクサスが、一般的なことを口にする。
ただ理解していたとしても、きっと同じ事を言うのだろう。
「そうかもね。一緒に泣いてあげることも優しさなのかな?」
「かもね」
「じゃぁレクサス優しくないね、泣いてないじゃない。」
くすりと笑うと、涙が溜め込まれた瞳から一筋の熱いものが頬を伝った。
シュリはリーフの肩を少し離し、自分と彼女の額をこつんとつける。
彼女の額はあたたかく、シュリはそれに心が温められる。
「アイサのところに行かなきゃ。」
シュリは小さくそう言うと、そっと額を離し立ち上がる。
「いこっ、リーフ」
そしてリーフの手を取り歩き出した。
(アルフォンス…、いい弟子を持ったね。)
彼女達を見送りながら、レクサスはひとり呟く。
「同じ悲しみを理解しているやつなら、きっと、そうだろうな…。」
雪がひっそりと降る中、レクサスは雪を再び投げつけている。
「何やってんの? 憂さ晴らし?」
「ほっとけ」
声の主の方へ振り向かずに、レクサスは黙って雪を投げ続ける。
女は微笑むと、静かに彼の左に寄り添うように、雪の上に足をくの字に折って座る。
「泣きたければ泣いてもいいよ?」
「うるせぇなぁ〜」
「ふふっ、素直じゃないんだから。」
彼は雪を投げる手を止め、あーっ、と言ってから、頭に両手をついて雪の上に仰向けに寝転んだ。
首を左に曲げると嗚咽するアイサを抱きしめるシュリと、彼女を治癒するリーフの姿が見えた。
前方からは依然としてアランがむせび泣く声が聞こえている。
女は黙って涙を流すのを堪えてはいるが、女の瞳も潤んでいる。
堪らなくなり、彼は右に寝返りをうち、肘をついてぼんやりと降り注ぐ雪を見つめる。
彼は、静かに一粒だけ涙を流した。
決して誰にも見せることなく。
しばらくして彼は言う。
「なぁ」
「なに?」
「ありがとな…」
「…いいよ」
リトも彼と同じく隣でぼんやりと雪を見つめていた。
黄色の髪を掻き上げ、僅かな雪が静かに舞った。
ノヴァとリザルトの撤退により、正面と右翼の部隊は反撃に転じた。
中核を失ったバイサスの部隊は見る見るうちに瓦解していった。
バイサス軍は左右の部隊が壊滅してしまったことにより、士気が低下し、
これを受けて傭兵であるバイサス側についたイルスの者は次第に敗走した。
ジャイファン軍左翼部隊が城門を占拠し、逃げ遅れたバイサス軍は囲まれた末、玉砕した。
城門前で合流したジャイファン軍はそのまま城門を破壊し、城内になだれ込んでいった。
既にジャイファン軍優勢の状況で、バイサス軍の然したる抵抗もなく、城内占拠という念願が叶った。
バイサス軍の死者は90人を越え、バイサス側についたイルスの死者は20人以上に上った。
中でも3国最強剣士リザルトが重傷を負い、今回の敗戦でバイサスの士気が低下した。
だがその代償はジャイファンには大きかった。
ジャイファン側についたイルスの死者は数人、ジャイファン軍の死者は30人程度だったが、
ストリームブリンガーのピノと他4名、
アルフォンスギルドのギルドマスターである彼自身と他8名が戦死した。