The end of the DragonRaja, Chapter 1[Life and death]-33
アランは叫びながら剣を地面に突き刺した。
剣を握り締めながらどっと膝をつき、ずるずると泣きながら上体を落としていく。
そして剣を握っていた手を前方に投げ出し、うな垂れ泣き崩れた。
『あの時』アランの命を救ってくれたアルフォンスはもういない。
今の自分の基盤を築き上げていた時、戦士としての戦い方を笑顔で教えてくれたアルフォンスは。
もうあの笑顔を見ることはできない寂しさ、殺されたという悲しさ、
敵を取れなかった自分への悔しさが同時にアランを包み込んだ。
むせび泣く声に規制がかかることはなく、ただ泣き続けた。
アランのむせび泣く声をレクサスはあぐらをかき、黙って聞いていた。
少し遠くにいるアイサの姿を見ると、すぐに視線を逸らした。
今は自分から一歩先の地面に雪が降り積もるのを、レクサスはただぼんやりと眺めている。
心のどこかで支えとなっていた大切な人だった。
そして、自分の弓の師匠であった。
彼の形見である弓を見つめる。
「あとはその力を何に使うか…か。」
彼は無造作に雪を掴み、前方へ思い切り投げつける。
「強くなんかなってねぇよ、ちくしょぉ…。」
「随分とご立腹みたいね。」
振り返ると、目を真っ赤にし、まぶたを腫らすシュリが微笑んでいる。
彼は視線をアランの方へ向けて言った。
「アランのやつはほっといてやってくれよ、俺がここにいてやるからさ。
あいつここでずっと戦ってたからさ、アルフォンスさんがやられても。
俺が連れてっちまったからな…、だから今は泣かせてやってくれ。」
シュリは目を閉じ微笑みながら頷く。
シュリの傍についてきていたリーフは先程から瞳を潤ませていたが、
アランの姿を見て、また涙する。
それを見たシュリは彼女の頬を引っぱたいた。
「あんたはいつまで泣いてるの! さっき思う存分泣いたでしょ?」
いつになく語調が強い。
シュリは溜息をひとつつく。
彼女はリーフの視線に合わせるために膝を屈める。
そして子供をなだめすかすような優しい口調で言う。
「この前のレナス外部の局地戦、アルフォンスはリーフのこと誉めてたよ。
頼りになる子だなって。
いい? リーフは強い、アランも強い。
だからこんなことでいつまでも泣いちゃだめ。ね?
プリーストなんだから、こんな時こそ人を元気付けてあげなきゃ。わかった?」
リーフは涙を手で拭いながら、しっかりと一度縦に首を振る。
「よーし、いい子。さすがは私の部下ねっ。」
シュリは満面の笑みを彼女に見せ、彼女の肩と頭についた雪を払ってから頭を優しく撫でる。
リーフの緑色の髪がしっとりと濡れている。
レクサスは黙って聞きながら、相変わらず無作為に雪を投げつけていた。
ただ、レクサスにはシュリがアルフォンスのことを呼び捨てで言うことや、
彼女の心情の変化には気がつかなかった。
「よし、早速仕事するよ〜。アランは…、今のリーフじゃ辛いか。
私が治癒してくるから、リーフはそこの雪投げてる人をお願いね。」
シュリはレクサスにくすくすと笑みを見せてからアランの下へ向かった。
「アラン…」
シュリはアランにそっと声をかけるが、今の彼には彼女の声は届いていないかもしれない。
彼の姿を見つめる彼女の瞳は再び潤んだ。
しかし彼の悲痛な声を聞きながら、彼女はもう泣くまいと唇を噛み締めた。
(こんなに傷ついて…。でも、言ってあげなきゃ……。)
「アラン、ここでずっと、戦ってくれて、ありがとね。
アランが、頑張ってくれたから…、アルフォンスも…、きっと喜んでる。」
シュリの悲しみで詰まる声が今度は聞こえてしまったのか、
アランの泣きすさむ声は余計大きくなった。
彼女の言葉は彼への慰めのつもりだったのだろう。
ただ彼はアルフォンスの敵を取れなかった悔しさが一層増してしまった。
「違うんだ…、俺は、俺は…。
あの人は、勇敢に、戦った…、たとえ、いなくなって、しまっても…。
ピノも…、アルフォンスさんも…。
でも、俺は…、奴を…、倒すことが、できなかった…。
レクサスが、来てからは、俺は何も、できなかった…。
俺は、生きてるのに…、くそぉぉ…。」
ついにシュリは涙を堪えることができなくなってしまった。
最後まで戦った者と最期を看取った者の意識の違いがそこにはあった。
シュリは今の自分では、アランに対して何もしてあげられない、むしろ苦しめてしまう、
そういった自責の涙を流した。
先程リーフが流した涙と同じものを。